第9話 侵入者
ガラガラガラ、バンッ!
刹那、そんな鋭い音が耳を突き刺す。
暇すぎて、微睡みかけていた僕は一気に目を覚ました。
「大丈夫?! 皐月!」
次に、聞き覚えのある声が響く。
僕はその人物が入ってきた所為か、叩き起こされた所為か、無意識に口から溜め息が零れ出てしまった。
「あ、ごめん! 寝てた?」
「……いや、微睡んでいただけだ。それで、何をしに来たんだ?」
「えっ? いや、皐月が心配だから……」
「そうか、ご心配どうも。……というか、心配するなら先生が暴走し始めた時に止めれたんじゃないか? ……いや、そう言えば今日が初対面だったな……だったら、無理ないか」
今日初めて会った人間の為にあの先生に立ち向かうようなマネをするのは何処かのアニメの優しすぎる主人公だってしないだろう。
そこまでの思考に至ると、僕は再び溜め息を吐く。
「……そこまであからさまに溜め息吐かなくても良くない?」
「悪い。ちょっと体調が優れなくてな……安静にしたいから速くお引き取り願いたいんだが……」
「ちょっと待って、ついでではないけど話さなきゃいけないことが――」
瞬間、僕の周囲がまるで時が止まったかのように動かなくなった。
「おい、早耶香? どうしたんだ?」
あまりにも突拍子もない出来事に僕は本気で困惑する。
「サボり魔の皐月さん! どうも、優でーす」
背後から、言葉の割にテンションが高くない声が聞こえた。
「……慣れないキャラを演じるもんじゃないぞ。優。そもそも、何故いきなりキャラ変しようと思ったのか分からないが……」
「私は気分屋だからな。まぁ勿論、キャラは戻すが……」
受けが悪かった所為か、不服そうに彼女はそう言った。
彼女なりの冗談だったのかも知れない。
だとしたら、笑ってあげた方が良かったな……
「っていうか、時も止めれるんだな……」
「登場のバリエーションの一つだ。まだ他にもいくつかある」
「末恐ろしいというべきか頼もしいというべきか……」
「……そろそろ、私が何故もう一度ここに来たのか話そうか……時間も無限に止めれるわけじゃないしな。因みに、今回はここに来るつもりは無かったんだ」
彼女が、急に真面目な顔で話し始めたので、僕は少し気を引き締めた。
彼女が、額に汗を浮かべていることから、僕は嫌な予感を覚える。
「……というと?」
「簡潔に言おう……この学園に良くない人間が侵入してきている」
想像を軽く超えるその言葉に、僕は絶句する。
「大凡、反社会的勢力の人間だろう……政府の機密書類とかがあるからな、この学園には。……正直、私はどっちにもつくつもりはないんだが、皐月はそういうわけにもいかないだろう?」
確かに、僕はこの政府が直々に創った学園の生徒だが、前も言ったが僕は政府が嫌いだ。
だから、先生と共に政府を潰すことにした。
しかし、ここで目立った行動をしてしまったら後々、大変なことになるだろう。
僕らが動くのはまだ速いってわけか……
「そうだな。僕は政府側につくよ。あくまで建前上だけどな」
「妥当な選択だ。まぁ、それだけだ。せいぜい気を付けろよ」
「あぁ。家でまた生きて会うよ。絶対にな」
「私が侵入者に制裁を加えてやりたいがそうはいかないからな。本当に、生きて帰ってこいよ」
彼女が言い終わった途端に、周囲に音が戻った。
「――侵入者が入ったらしいよ! この学園に!」
早耶香が元通りに動き出す。
僕は心做しか少し安堵の息を洩らした。
「まじか?! 誰に教えて貰ったんだ?!」
事前に知り得た既知の事実に演技をしながら、騒ぎになっていないということは全生徒には知りわたっていない情報だと予想し、そう尋ねる。
「先生だよ! 混乱を招きかねないからって私にだけ教えてくれたの!」
恐らく先生は僕に情報を伝えようとしたのだろう。
だとしたら、早耶香のこの行動は予測されていたと考えるのが妥当だ。
何故、先生は僕にそれを伝えようとしたのか……
その答えを出すのは容易だった。
「捕まえろってことか……あーまじで、先生の洞察力は凄いな」
僕は軽くベットから飛び降りると、保健室を出た。
「ちょっと! 何処に行くの?!」
そう、先生から受けた攻撃などとっくの昔に治っていたのだ。
言動からして恐らく優も気が付いていたのだろう。
打ち明けると、僕は、あの授業に戻るのが面倒臭いからまだ動けないという振りをしていたのだ。
まさか見抜かれるとは思ってもいなかったがな……
いや、先生が僕を攻撃したところから、ここまでの予測はできていたのかも知れないな。
怖すぎるだろ……
僕は心中でそう思った。
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