第8話 保健室
「う……うーん」
痛みにうなされながら、僕は意識を取り戻した。
すぐに目に飛び込んできた見慣れない景色に多少の困惑が混じる。
しかし、先程までの出来事を鮮明に思い出し、ここが保健室であるという結論に辿り着いた。
「お、起きたか……」
僕が横になっているベットから少し離れたところにある淡い緑色の固いソファに腰を下ろしている人物――僕を保健室送りにした人物でもある――が安堵感を漂わせながらそんなことを言った。
「大凡死んでなくて良かったとか思ってるんだろうなぁ……」
今までの出来事による色濃い疲労感の所為か不意に心の声が言葉になって口から出てしまった。
「当たりだよ。あの短期間で俺という人間を理解したようだな」
「無理矢理理解させられたって言ったほうが的確だと思いますが……ていうか、強すぎませんか?」
自らに降りかかる災難の数々により気付かなかったが、この先生は最底辺のクラスの担任の割に強すぎる。
それも、この世界のトップを取れそうな程に……
「まぁ、一応俺はこの世界でトップ3の実力だと自負してるからな……それなりには強いさ」
「トップ3? 平穏な暮らしでもしたいんですか? 普通、自負なら一番上を言いますよ?」
「生憎と、とある二人の人間に負けてしまってね……トップとか自負できないんだよ」
「なんか、そこら辺はちゃんとしてますね……」
「全てちゃんとしてるだろ?」
僕たちの冗談交じりの会話で、周囲にはのんびりとした空気が流れていた。
しかし、先生が次に発した言葉で、それらが一転し、真逆の空気となる。
「ところで、なんで俺が保健室に居るのか気にならないのか?」
文だけを見れば、まださっきの空気が残っているように感じるが、先生の顔が真面目な顔になっている為、現実ではそう感じない。
「サボり以外に理由があるんですか?」
「サボりもあるにはあるが目的は別にある……それは、皐月と二人きりで話すことだ」
「それなら屋上でしたら良かったじゃないですか」
「時間がなかったからな……保健室なら、存分に話せるだろう? 今は保健室の先生も居ないらしいしな……」
先生が、何処からともなくタバコを取り出し、咥える。
中毒になっているのか、1日に相当な数を吸っているようだ。
「吸うか?」
再び、先生がタバコを差し出してくる。
他人に上げれるほど数を持っているらしい。
「いや、いいですよ。僕は起き上がると痛いでしょうからね。それに、この学園の保健室なんです、可燃性の薬品とか置いていてもおかしくないですしね」
「多分、俺は世界が終わるときもタバコを吸ってるんだろうな……やめようにもやめられない」
密閉された空間にタバコの煙が充満する。
「知りませんよ、保健室の先生に怒られても」
「そん時はそん時だ。……それよりも、話をしようじゃないか……一応、重要な話だ」
「そうですね……もし、どうでもいい話だったらぶん殴りますよ」
「単刀直入に言おう……俺たちで、政府を潰さないか?」
数秒間の沈黙が流れた。
嵐の前の静けさとも言えるようなこの時間は、時が止まったかのようだった。
「はい? 正気ですか?! 無理に決まってるじゃないですか?!」
「まぁ、落ち着けって、痛むんだろう? 体が……」
気が付けば、僕は起き上がっていた。
痛みすらも一時的に忘れさせる程の言葉だった。
「……取り敢えず、そういう思考に至った理由を聞きましょう」
僕は大きな深呼吸をした後、そんなことを聞く。
そんな程度で落ち着けるわけなかったが僕は冷静を装った。
「皐月は政府が嫌いなんだろう? 俺もお察しの通り政府が大嫌いなんだ。利害の一致ってやつだ」
「無謀にも程があるでしょう? 仮に僕がその計画に加わったとして、政府相手にたった二人で何ができるんです? それに、僕は役に立ちませんよ?」
「上手く立ち回れば何とかなる。政府なんかガワだけ強いだけさ」
まるで、政府の全てを知っているような口調で先生はそう言う。
「それなら1人でやったらどうです?」
「人数は多い方がいい。何をするにしてもな……」
ふぅ……と煙と共に先生は大きく息を吐く。
いい加減、窓を開けてほしいものだ。
「はぁ……いいですよ。その計画に加担するとしますよ。僕も、政府に会いたい人が居るんです。それに、僕がこういうまで引かないでしょう?」
「そうか、良かったよ。今日から、俺たちは仲間だ。敬語を外してもらっても構わない」
「なんだか先生にタメ口で喋るのは違和感があるな……」
僕の年齢を戻したとしても、きっと先生の方が年上だろう。
何となく、そういう雰囲気がする。
「じきに慣れるさ」
「そう願うよ……ところで、何か作戦はあるのか?」
「勿論……だが、これは後で話そう。頭がパンクし始めているだろう?」
「お気遣いどうも。遅いけどな」
「……じゃあ、そろそろ職場に戻らないとヤバい。安静にしとけよ」
先生はそう言い残すと、保健室を出て行った。
「まったく、誰が言ってるんだよ……」
むせ返るほど煙たくなった室内にポツリとそんな声が響いた。
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