第5話 学園
「……きろ……起きろ!」
闇の中を彷徨していた僕はそんな声で意識を覚醒させた。
「ん……眩しい……」
一気に目に入ってきた光に僕は狼狽えながらも起き上がる。
不意に、立ち眩みが生じ、倒れそうになるが何とか持ち直す。
僕は軽く目を擦ると、僕を気絶させた張本人の方を見る。
「はぁ……あの程度の攻撃で気絶するのか……」
彼女は起き上がった僕を見るなり、溜め息混じりにそう言った。
「誰だってそうなるだろ」
「普通の人は2発は耐えるさ。つまり、皐月は平均以下ってことだ」
確かに、一般的な人よりは運動不足かも知れないが面と向かって言われると腹のたつものがある。
それに対して、僕は苦笑を浮かべるしかなかった。
「……まずいな……この程度だったら強敵と戦闘をすることになったら死んでしまう……流石の私でも一度知り合った人間が死ぬのは気分が悪いものがある……」
彼女は顎に手を当て熟考を始めた。
自分の所為でそうさせてしまっていると考えると罪悪感を覚えずに居られない。
「うーむ……ん? そうだ! 皐月! 学園に行ってみないか?!」
彼女がいきなり大きな声を出したので、僕はビクッと肩を上げた。
次に、僕はその内容に驚くことになる。
「学園だって?! 何を言ってるんだ?! 僕は学生の年齢じゃないぞ?! それに、ここにある何とかの木を守らないといけないだろ!」
彼女に負けないぐらいの声で僕は言った。
「問題はない。終わりの木は、私1人でも守れるし、皐月の年齢ぐらい簡単に操作できる」
「助手が欲しかったんじゃないのか?!」
僕は必死に学園に行きたくないという思いを伝えようとする。
「これもある意味、助手みたいなものだよな……」
しかし、彼女は意味深なことを言って、気付かないふりをした。
僕は一周回って冷静になる。
「何処の学園に行くんだ?」
「政府が創ったあの能力専門学園だ。聞いたことぐらいあるだろう?」
「まさか、あの?」
「今は入り易そうだしな中途半端に学ぶよりも
彼女は僕に背を向けて去っていった。
僕は放心状態でそれを見守る。
手続きぐらい彼女の能力を使えば自らの正体をバラさず、一瞬で終わるというのだろうか。
そこで、僕は彼女が放った言葉尻に違和感を覚える。
「えっ? 明日?!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
小鳥の囀りが聞こえ、周囲には人々のざわめきがある……そんな爽やかな朝、僕は鞄を片手にその学園の門を眺めていた。
大きな両開きの扉は全開になっており、生徒と思わしき人々が次々と吸い込まれている。
「ここか……嫌だなぁ……」
僕はいつもより少し高くなった声でポツリとそう呟く。
彼女の能力によって学生と同じ年齢にされてしまった。
能力は解釈次第と何処かで聞いたことがあるがそれにしても彼女の能力は応用が効きすぎるな。
能力名までは知らないが何となく、想像がつく。
現にこの遠い学園まで瞬間移動で連れてきてくれたからな、『魔法を使う』能力とかじゃないだろうか。
僕はそんなことを考えながら重い足を動かし、その門をくぐった。
遠近法が働くほど遠い方に、建物が見える。
本校への道の両サイドには噴水が2つあり、いくつもの街灯が立ち並んでいる。
前に本で見たお嬢様学校みたいだなと僕は思った。
面白かったなぁ、あの本……僕はそんなどうでもいい過去を懐かしみながらただ1人でひたすらに歩く。
すると、漸く生徒玄関がその姿を現した。
横に並ぶ、学年、クラスごとに分けられた靴箱。
僕は1年4組と書かれた靴箱に足を運ぶ。
そこで、靴を履き替えようとしたら、後ろから声を掛けられた。
声なんか掛けられるわけないと思っていた僕は驚きながらも振り返る。
「君、見ない顔だけどもしかして噂の転校生?」
声を掛けてきた人物は、紅い髪の色をし、メガネを掛けた女性だった。
「あ、はい。そうですが何か?」
僕は少し緊張しながらもそう答える。
「いや、噂になっていたから……私も気になっていたってだけ。……どう? 案内といってはなんだけど、教室まで一緒に行かない?」
僕はその提案に、戸惑いながらもコクリと頷いた。
「良かった。私の名前は
「清水皐月です。こちらこそよろしくお願いします」
年齢は自分の方が上ということは分かっている。
だが、無意識に敬語を使ってしまっていた。
「別に敬語は外していいよ。お偉いさんでも、先輩でもないしね」
そのことを早耶香に指摘される。
「そうか。僕もこっちの方が慣れてるよ」
「じゃあ行こっか! 1年4組に」
僕たちは、学園内の廊下を歩き出した。
さっきまで1人だったためか、隣に人が居るのに、心做しか安心感を覚える。
「それにしても、よくこの学園に入ろうと思ったね」
早耶香がそんな話題を振ってくる。
「どういう意味だ?」
「この学園、実力至上主義だからね。実力がない人間はゴミ同然に扱われる……それに耐えきれない生徒は次々と振り落とされていく、もう何人か自主退学したっていう噂も聞くよ」
「おいおい、これからっていうのにそんな嫌な話をするのか?」
「あはは、ごめんごめん。っと、ここだよ。教室は」
「じゃあ、入るか」
僕は少し身だしなみを整えてガラガラとその扉を開けた。
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