第4話 試験
オレンジ色の暖かい照明が周囲を照らす。
辺りに少しばかりの程よい緊張感が漂う。
彼女は大きく息を吸い、それからの言葉を紡ぐ。
「皐月は、この家の裏庭にそびえ立つ大木を見たか?」
僕はコクリと首肯する。
それがどう関係あるのだろうかと湧き上がる疑問を胸に納め、彼女の話を聞く。
「そうか……あの木は終わりの木という名前なんだが……あれには私も良く分からないが不思議な力が込められているらしい」
「不思議な力?」
確かに周りの木とは何かが違う異様な雰囲気を醸し出していたが、それでも所詮は木なのでそんな力を秘めているとは思いもしなかった。
「あぁ、私の父の父が込めたんだ。実際に私はその現場を見ていないから真偽は不明だが」
彼女はそう言いながら椅子の背もたれに体重を掛け、椅子の前足2本を浮かせるがバランスを崩して倒れかける。
しかし、何とか体制を取り直し元の位置へ戻ってきた。
恐らく死の恐怖を深く味わったことだろう。
「……それで私は終わりの木が悪用されないように守らないといけないんだ。だから、あの緑髪も追い払った」
彼女は冷静を装い、そう続けた。
「そうだったのか……大きな疑問がやっと晴れたよ」
緊張感は消え失せ、穏やかな空気が漂い始める。
僕はスッキリした気分のまま軽く伸びをした。
「さて、これから皐月にやってもらう事がある。ちょっと付いてきてくれ」
彼女は少し息を吐いた後、席を立ち部屋を出た。
僕は慌てて彼女に付いていく。
「ここでいいかな」
彼女は部屋を出てすぐの広いエントランスで立ち止まり身を翻しこちらを見る。
僕は自然と姿勢を正していた。
「これから、皐月には戦闘をする機会が増えていくと思う。いや、必ず増える。戦闘とは命の駆け引きだ。殺らなくては殺られる。見たところ皐月にはそういった経験が少ないと見える。だから私が戦闘を教えてやろう」
それを聞き、僕は絶句する。
戦闘経験は彼女の言う通り皆無だ。
そんな僕が彼女と戦闘なんかをしたらどうなるかなんて火を見るよりも明らかだろう。
「この家はそうそう壊れない。思う存分、やり合おうじゃないか。まぁ、手加減はするがな……」
刹那、開始の合図かのように光の弾幕が飛んでくる。
僕はそれを本能で避けた。
穏やかな空気は一瞬にして引っ込み、さっきまでの緊張感とは比べ物にならない程張り詰めた空気が充満する。
「ちょ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
次々に飛んでくる弾幕の数々をギリギリで回避する。
弾幕が床と触れる瞬間、激しい轟音が鳴り響く。
「ほれほれ、攻撃はなしか?」
彼女は馬鹿にするような口調でそんな事を言う。
しかし、攻撃の手は緩まず、一瞬の隙もない。
「能力を使ってみろよ。能力を」
彼女はそう言うがはっきり言うと僕の能力は戦闘向きじゃない。
デメリットは凄く大きいし、見破られたら死が待ち受けている。
だが、使わなければこの状況が続きジリ貧になって終わるだろう。
僕は覚悟を決め、意識を集中させる。
能に秘められし力を取り出すイメージをし、能力を発動すべく、言葉を発す。
「優の好きな人は誰だ?」
「へっ?」
彼女が、僕の質問に対して素っ頓狂な声を上げる。
それもその筈、戦闘中になんの脈略もないことを訊いたのだ。
そうならない方がおかしい。
「なっ……動けないッ!」
次に、自身の体の異常に気付いた彼女がそう声を上げる。
僕はこの隙を見逃さず、彼女に攻撃を仕掛けた。
手を緩める必要はない。
戦闘中では殺るか殺られるかだ。
身動きの取れない彼女に蹴りを放つが彼女は微動だにしない。
僕は間髪入れず次の攻撃をする。
塵も積もれば山となる……僕の弱い攻撃も積もれば大ダメージに成り得る。
連続攻撃に、流石の彼女も苦しそうな顔をした。
「これが、僕の能力だ!」
そう言いながら、渾身の蹴りを放つ。
しかし、彼女はそれを受けて尚、降参するなどはしなかった。
「……何とかして、この拘束を解かないとな……多分、発動条件は相手に質問をすることだろう? だとしたら『質問に答えさせる』能力といったところかな……」
彼女の推理力に僕は思わず攻撃の手が止まる。
御名答と言ってやりたいが自ら手の内を明かすようなことは僕は嫌いだ。
「質問に答えるまで相手を拘束するのか? だが……これで、私にこの拘束は意味をなさなくなったな」
「どういう事だ?」
「こういう事だよ」
瞬間、パリンという音と共に僕は後方に
大きく吹っ飛んだ。
やがて壁に激突すると、鋭い痛みが僕を襲う。
「は? 何故動けるんだ?!」
痛みの叫びよりも先に疑問の声が洩れる。
彼女は拘束をされているにも関わらず、普通に動いていた。
いや、僕の能力が解かれたと言ったほうが正しいだろう。
とにかく、彼女は動いていた。
「驚くのも無理ないよな。まぁ、何故動けるのかなんて言うつもりもないが……」
彼女は不敵な笑みを浮かべながらこちらに歩み寄ってくる。
僕は痛みと驚きで何もすることができない。
彼女が目の前まで来ると、僕の意識は闇へ落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます