第3話 緑髪

 ザッザッザッザッと乾いた地面を蹴り、走る。

そして漸く、僕らはその場所へ辿り着いた。


「さぁて、次は何をしようかなー?」


土埃が巻き起こっていない無風地帯の中心からそんな呑気な声が響いた。

声の正体は緑髪をした男で、後頭部に手を乗せてぶらぶらしている。

服装は普段着のようなもので少なくとも政府の人間とは思えない。

恐らく、こいつが彼女が言っていた危険人物だろう。


「あいつはこちらの存在に気付いていないようだ。不意打ちをしよう」


彼女は小声でそう言った途端、消滅した。

否、正しくはのだ。

気付けば彼女は男の背後を取っていた。

そこで漸く男は彼女の存在に気付くが時は既に遅く、彼女の右手から繰り出された謎の力に吹き飛ばされる。

激しい轟音と共に土埃の波が押し寄せてきた。 

しかし、それは僕の周辺だけを避けて通り過ぎていく。


「これは……結界?」


いつの間にか僕の周囲には薄い緑の壁のようなものが張られていた。


「皐月、大丈夫か?」


すぐ隣から彼女の澄んだ声が聞こえた。

僕は驚きながらもそちらに目をやる。

そこには何とも無かったような表情でこちらを見る彼女が居た。


「この結界は優が張ってくれたのか?」


僕は驚きを抑えながらそう尋ねる。


「あぁ、結界とはちょっと違うが私が張ったものだ。中々良いだろう? 久々に使ったよ……」


彼女は少し昔を懐かしむような口調で答えた。


「まるで、今まで使う必要が無かったかのように言うな……」


「実際、そうだからなぁ……さっきの奴だってそこまでの実力を持っていなかっ……た?!」


刹那、激しい雷鳴と共に大雨が降り出した。

しかし次の瞬間、僕は彼女はそんなことに驚いたのでは無いと理解する。


「イテテテ、痛いじゃんか! いきなり何をするんだよ!」


雨音と一緒に聞こえる筈のない声が聞こえた。

稲光でそいつの派手な緑色の髪が照らされる。


「あれを喰らって……?」


思わず、困惑の声を洩らす。

それは次の雷鳴で掻き消された。


「依然として問題はない。寧ろ、少し面白いじゃないか!」


彼女の口元が少し歪んだと思うと、両手に光を集め、それを男に投げ飛ばした。

その綺麗な星のような弾幕は男を追尾する。


「またいきなり攻撃してきた! 俺が何をしたって言うんだよ?!」


男は風のような速さでそれを回避する。

しかし、それはまるでゲームの経験値のように男を追いかけ回す。

男は体力の無駄と思ったのか突然立ち止まり、片手で空中を薙ぎ払った。

すると、たちまち竜巻のようなものが発生し弾幕を吹き飛ばす。

これが男の能力……風を起こし、地面を揺らし、雷雨を降らせているのも恐らくこいつだ。

風、地震、雨、それらに共通することは自然現象であること。

つまり、そこから推測するに男の能力は恐らく『自然現象を操る』というものだ。

神々が使いそうな能力だがそこまで大層なことはできないだろう。

証拠に、今まで男は小範囲攻撃しかしていない。

何もできない僕は彼女を応援でもしようかな……


「やはり、そこら辺の奴とは一味違うな……あれを防げるとは……」


「なんでこんなに強いんだ? さてはお前、政府の人間だな? そうだとしたら辻褄が合う」


「残念。私は政府の人間なんかじゃない。さて、そろそろ行こうか」


彼女は思いっきり、地面をえぐり、弾丸の如く男に直進する。


「ちょっ?! やめろって! 別に人殺しをしてる訳じゃないだろ?!」


男はギリギリでそれを躱すと、慌てながら言った。


「他でやってくれたらこんなことしなくて良かったんだがな……まぁ手遅れだ。今から少し本気を出す」


「しゃーない、俺も死にたくは無いんでね……全力で――」


男は両手を彼女に突き出し、周囲の空気を集める。

そして、男の能力が発動した。

手のひらから思いっきり風が吹き出し、全てを飛ばす程強力な竜巻が発生する。


「――逃げるッ!」


「はぁ? ちょっと待て!」


男は風力を利用し、目にも止まらぬ速さで逃げていく。

男が離れていくに連れ、雷雨は少しづつおさまっていった。

彼女は追いかけようとするがもう追いつけないと悟ったのか身を翻しこちらに戻って来る。


「はぁ……まぁ取り敢えず、危険は去ったと判断していいだろう……もしまた来たら今度こそ戦うよ」


「意外と戦闘狂だったりするのか?」


「まさか、そんなことない。さ、帰るぞ。私の手に掴まれ」


「えっ?」


素っ頓狂な声を出しながらも僕は言う通りに彼女の手を掴む。

瞬間、辺りが歪んだと思うと僕は彼女の家の部屋に戻ってきていた。


「テレポートだ。便利なものだろう?」


「最初もこれで移動したら良かったんじゃないか?」


「あー、あれは……場所が定まって居なかったからな……それに、これは結構消費するしな……」


彼女が誤魔化すようにそう言ったので、僕はそれ以上深堀りしないで置いた。


「さて、座ってくれ。今度こそルールについて話そうじゃないか」




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