第29話 答え

『今まで育ててやった恩も忘れて』

『恥知らず! 人でなし!』


 ふざけるなと怒鳴りたかった。怒鳴れる勇気を都会で身に付けたはずだった。


 弟の葬儀に帰省したあたしを待っていたのは何も変わらない両親で。戦うすべを身に付けたと思っていたあたしは、何もかもが付け焼き刃だったと知った。


 今まで育てた恩?

 何をされた記憶もない。中学に上がるまでは祖母が生きていた。祖母があたしを育ててくれた。祖母が亡くなってからはもう、誰もあたしを見てくれなかった。


 両親の愛は全て弟に注がれていて、あたしの価値はどこにもなくて、それでもいつかを夢見ていて。

 結局、願った未来なんて欠片も手に入らなかった。


 あたしの手の中にあるのは、二つの生首。

 父と、母の、生首だけだった。


「アナタ、殺したの」

「そうだよ」

「アナタのお父様とお母様を殺したの?!」

「だから、そうだってば」

「どうして、そんなこと……」

「姫さんには分からないだろうね、だってあたしは、姫さんをそういう風には作らなかったし」

「…………」

「いいんだよ、分からなくて。分からないでいて。姫さんと過ごした夏は楽しかった。初めて、楽しかったんだ」

「そう……」

「二人を殺してから、身体を焼いて、骨を埋めて、首の世話をしてたんだ。だから、姫さんまで生首になってたのはビックリしたなぁ。ごめんね、あたしのせいで」

「いいわよ、別に」

「うん、ありがと」


 お姫様の髪は、豊かで、艶やかで、輝いていて。組んだ足の上にちょこんと収まるお姫様は軽くて、小さくて、可愛くて。


 あたしが選んだ答えを、許してくれる温かさだった。

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