第27話 物語

 お姫様が一冊のノートを咥えて部屋に入ってきた時、終わりというのは案外あっけなく訪れるものなのだなと思った。

 古びたノートには下手くそな絵と文字がみっしりと書かれていて、それは全部、お姫様の物語だった。


「私は、アナタのお話の登場人物なの?」

「そうだよ」

「それじゃあ、私は生きていないの?」

「まぁ、そもそも生首だしね」

「そういうことを言っているのではないわ!」

「あはは、知ってるよ、ごめんね」

「私、どうなるの? アナタが私を忘れたら消えるということ?」

「んー、まぁ、似たようなもんかな」

「そんな…………」


 本当のところは、分からない。あたしとは無関係にお姫様が存在している可能性もゼロではない。けれど、普通に考えればあたしのせいでお姫様はここにいて、私の目の前で、転がっているのだろう。


 家庭環境の悪さに気付かないフリができなくなって、空想の世界に必死で逃げ込もうとしたあの頃のあたしが、精一杯考えて、書いた、ワガママだけれど愛されていて、それでも殺されてしまうお姫様の物語。


 あたしの脳内を駆け回っていた可愛い可愛いお姫様は、断頭台で首を刎ねられ、コロコロコロコロ泥だらけになりながらあたしの元へやってきた。

 ずっと可愛がってあげたい気持ちがないわけではない。でも。あたしには無理だ。せめて自分が死んだ後、空の上でお姫様に再会できたらなんてファンタジックなことを考えるだけ。


 あたしはあたしの物語を、終わらせると決めたから。

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