第26話 故郷
お姫様はお城で働く人々が一年に一度、少し長い間姿を見なくなることに気が付きました。侍女に尋ねれば、みな休暇をもらって故郷に帰っているのだと言います。
『ふぅん、じゃあ私の故郷はこの国ということね』
お姫様は城下町を見下ろした光景を思い出し、満足げに頷きます。
『まぁ、合格よ。お城も立派で綺麗だし』
お城が綺麗であることが当たり前のお姫様にとって、その状態を保つためにどれほどの民が働いているかなど想像も付きません。その民たちが、自分の故郷を捨てて別の国へ去り始めていることも、何も知りませんでした。
「アナタの故郷はここなの?」
「そうだね、ここだね」
「故郷にいられて幸せね。私の故郷はもうないもの」
「故郷、なんて、そんないいもんでもないさ」
「そうかしら?」
「そうだよ」
あたしが眠る間、眠らないお姫様はリビングで映画を観ている。リモコンの操作も今やお手のもので、首そのものと口を使って器用に早送りや巻き戻しをしていた。配信サービスのメイン画面から、観たい作品を選ぶのも手慣れたものだった。
あたしは映画に夢中になるお姫様に気付かれないよう、六畳の洋間で両親の世話をする。お姫様にするより雑な手付きで、最低限の世話を。
この町に、この家に、帰りたいと思ったことなどなかった。里帰りをする同期を見送り、ずっと、帰らないつもりだったのに。
結局あたしはここにいて、両親に、縛られている。
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