第22話 呪文

『元気が出ないときには、呪文を唱えるの。そうしたらいいことが起こるわ』


お姫様は秘密の呪文を知っていました。幼い頃、優しい女性がこっそりと教えてくれた秘密の呪文です。いつだって心にはその呪文があったし、誰にも見付からない場所でこっそり唱えれば確かにいいことが起こったのです。


「今こうやってコロコロしているのも、ある意味いいことなのかもしれないわ」

「どしたの急に」

「私、最後の瞬間に呪文を唱えた気がするの、秘密の呪文。そのお陰で、ここにいるんじゃなあなかしら! 記憶は怪しいけど! 首だけだけど!」

「姫さんがそう言うなら、そうなんじゃないかなぁ。あたしの世界には魔法も呪文もないからね

「いたいのいたいの〜っていうのは?」

「あれはおまじない」

「似たようなもんじゃない」

「いや、違うっしょ」


 魔法は、ない。

 呪文も。なにも。


 ただ、生首が。首だけの少女が、いるだけだ。

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