第20話 たぷたぷ

お姫様は父親のふくよかなお腹をたぷたぷするのが大好きでした。王様のお腹をたぷたぷするなんていけませんと母親は言いましたが、人の見ていないところでならいいよと、部屋に二人だけでいるときだけは許してくれるのでした。

ワガママで、傲慢で、残酷なお姫様ですが、優しい父親の前ではただの年頃の女の子です。たぷたぷのお腹にこてんと頭を預け、うとうとと微睡まどろむ時間が、お姫様にとってなによりの宝物でした。


「はぁ、お父様に会いたいわ」

「残念だね、首も身体も見当たらなくて」


 寂しげに転がったお姫様が、あたしのあぐらをかいた足の真ん中にすっぽりと収まった。


「どうして私だけここにいるのかしら。色んなことを覚えているのに、ところどころ記憶がなかったりするの。首だけになった原因だけじゃなくて、日々の出来事も虫食い状態なのよ。変よね」

「まぁ、そもそも首だけで存在して、しかもしゃべって動いている時点で変すぎるからね。他のことはもうオマケみたいなもんだよ」

「それはそうなのだけど……うーん、モヤモヤするわ、とっても」

「もうすぐ、スッキリできんじゃないかな」

「どうして分かるの?」

「何となく」

「答えになっていないわ!」


 あたしはハハハと笑って誤魔化して、もう手櫛てぐしでも引っ掛からずに梳けるお姫様の金髪をサラサラと撫でた。

 スッキリできるのは、あたしだけだろう。きっと。


 

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