第19話 置き去り [残酷表現注意]

お姫様は時折、お城の裏山へと出掛けることがありました。お気に入りのお供と、お気に入りの犬と、そして飽きてしまった犬を連れて。


『帰巣本能があると言うじゃない? 戻ってこられたら、また飼ってあげてもいいわ』


そう言いながらも、置き去りにした犬がお城へ戻ってきたことはありません。耳は削ぎ落とされ、目は潰され、口は縫い合わされ、鼻は折られた状態で置き去りにするのですから、当然です。

お姫様は痛みに喘ぎ、お城の方角を必死で探る犬をほんの少しだけ眺めた後、つまらなそうな顔をして戻ってしまいます。

面白くないのなら、やらなければいいのにと周りの者たちはおもいます。けれど、それを口にすることは決してありません。みんな、森に置き去りにされたくありませんから。


「飼い主のことが好きなら、どんな状態だってきちんと飼い主のところへ帰ってくるわよ!」

「姫さんのこと、好きじゃなかったんじゃない?」

「私のことを好きじゃない生き物なんているはずないわ」

「そのメンタル見習いたいね」


 お姫様くらい強ければ、あたしは今でも普通に日常を生きていたに違いない。生首も拾わず、毎日楽しく。

 残念ながらあたしのメンタルはそんなに強くなかったし、生首と一緒に生活するという世にも珍しい日々を過ごして、いる。

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