第10話 来る

月に一度、城には商人がやってきます。

両手をもみもみ、顔はにこにこ、お腹のふっくらした男性が、お姫様の相手でした。

お姫様はドレスにネックレス、指輪にピアス、お化粧品や髪飾り、それはそれはたくさんの物を楽しげに選び取っては自分の物にしていきます。

側に控える侍女たちは、それらを購入するためのお金がもうほとんどないことを知っています。国民から徴収している税金が、また上がるかもしれないことも。

国民の生活も、王族の生活も、既に破綻しているといえるのに、ただ一人お姫様だけが、無邪気に、今まで通りに、暮らし続けているのでした。


「アナタの家には新しい物がないのね。どれもこれも使い古されていて、貧民というのはみんなそうなの?」

「あたしほどじゃないだろうけど、似たような人は多いと思うよ」

「大変ねぇ、私だったら耐えられないわ。今は首だけだし、アナタがいないと困るから我慢しているけれど……あぁ! 私が我慢ですって! お母様が聞いたらすっごく驚くでしょうね!」


 あたしの家にある新しい物なんて、お姫様のために買ってきたトリートメントくらいではないだろうか。

 お姫様がこの家に来てから、ほんの少しだけ、この家に風が吹いたのだ。新しい、風が。

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