第9話 つぎはぎ
お姫様のドレスが一着、行方不明になりました。
それほど気に入ってはいなかったけれど、ふと思い出して着たいと言ったのに、大きなクローゼットのどこにも見当たらなかったのです。
お姫様は怒り狂い、家臣たちは大慌てでドレスを探しました。
城下町の仕立て屋で見つかった時にはもう遅い。ドレスにはハサミが入れられ、庶民の中でも少し裕福な家庭向けの子供用ドレスに仕立て直されていました。
お姫様の前に、つぎはぎの小さなドレスが十着並びます。
『私のドレスを盗むだけでなく、ハサミを入れて、こんなにセンスのないものを生み出すなんて。許されないことだわ、ねぇ、罪人たちは一族郎党みな城へ連れてきなさい。私がお手本を見せてあげなくちゃ』
お姫様は罪人たちをひとまとめにしてしまいました。文字通り、ひとまとめです。つぎはぎだらけの肉塊は、お姫様のセンスを褒め讃えました。
「アナタ、貧民のような服しか持っていないのね」
「まぁ、そうだね」
「首だけでよかったわ。こんな服を着せられては堪らないもの」
「ははは、あたしセンスないからな〜」
「私が教えてあげてもいいわよ? あぁでもモノがないんじゃそれも無理ね」
「あ、ちょっと待ってて」
あたしはもう何年も開けていなかった押し入れから、ホコリの被ったプラケースを引っ張り出した。劣化したケースがパキパキと音を立てたけれど、中身にそれほどのダメージはなさそうである。
「まぁ! すごく可愛いわ!」
ケースの中には着せ替え人形。イマドキの装いではないけれど、それなりの量の洋服が畳まれていた。中にはドレスも数着あり、気に入ってくれたようだった。
「そこの青い花柄の、そう、それ。あと、そのみっつ右の……それよ! 早く着せなさい!」
お姫様の言う通りに着せ替えを繰り返すのは、ちょっと、いやかなり面倒くさかった。
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