第8話 鶺鴒
お城の中には、お姫様が立ち入ってはいけないとされる区域が至る所にありました。
いつだってお付きの侍女が目を光らせ、お姫様が探検と称してそこに立ち入るのを阻止するのです。
けれど、それで諦めるようなお姫様ではありません。
ある夜、お姫様は部屋を抜け出してお城の地下へと向かいました。
他とは違う石造りの階段に、お姫様の心は浮き足立ちます。
何かが聞こえてきたような気がして、お姫様は耳を澄ませました。
声のする方へ行ってみると、そこには扉があり、少しだけ開いているではありませんか。
お姫様は息を殺し、隙間から部屋の中を覗き込みます。
「このお家には立ち入り禁止の区域はあるの?」
「はぁ?」
お姫様が突然そんなことを言うものだから、あたしの心臓はバカみたいに跳ね上がった。別に、単純な好奇心なのだろうけれど。
「行ってほしくない部屋には鍵かけてあるから、姫さんにはどう頑張っても入れないよ」
「何よそれ! ひどいじゃない! 私に手がないのをいいことに!」
「それ以前にドアノブに届かないっしょ」
「あら、それはどうかしら?」
お姫様はフフンとドヤ顔をしたのち、ドアの下までごろごろと転がっていった。一回、二回と小さく跳ねてから、およそお姫様とは思えぬ力強い叫びを発しながら大きく飛び上がり、ドアノブに食らいついてみせた。
「ほうほ! ふほいへひょ!」
「はいはい、すごいすごい」
お姫様を回収し、ヨダレまみれのドアノブをピカピカに拭き上げた。歯形が付いていなくて本当によかった。本当に。
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