第7話 まわる

お姫様は犬が好きでした。

おすわりと言えばどさりと座って、まわれと言えばくるくるまわる犬のことが大好きでした。

いつだって気まぐれに、好き放題する上に、時折爪を立ててくるような猫よりずっとずっと大好きでした。

自分の残した料理をこっそりあげたり、可愛くてお気に入りの犬には使わなくなったリボンを首輪代わりに巻いてあげたりもしました。


「犬に会いたいわ」

「犬? お隣さんが飼ってるから見にいくかい?」

「まぁ! 見たいわ!」

「姫さんの思ってる犬と違うかもしれないけど」

「犬にも色々種類があるものね。いいわよ、どんな犬でも」


 朝ご飯を済ませて少ししか経っておらず、まだ暑さのピークが来るには猶予があった。寝巻きのまま家を出ようかとも思ったが、お隣さんと出くわすことを考えて着替えることにする。

 適当に引っ張り出したTシャツに、花柄の短パン。髪の毛を軽く整えてからお姫様をひょいと持ち上げた。


 隣の家までは数メートル。門の外から見える犬小屋の中、茶色のふわふわが見える。あたしが声を掛けると、ゴールデンレトリバーが鎖の許す限り近付いてきた。何度も会話をした仲だ、ちぎれんばかりにしっぽを振って、歓迎の意を示してくれる。


「ほら姫さん、可愛いだろ」

「なぁに、この毛むくじゃら」

「姫さんが見たいって言ったんじゃんか、犬だよ」

「私の知っている犬と違うわ! まぁでも、この犬も可愛いといえば可愛いわね」

「そうだろ?」


 それからしばらく、お姫様は犬との交流を楽しんだ。

 お手ができなくなったことだけは、ひどく悲しんでいた。

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