第15話 にゃんこ魔法です


 異世界に勇者として召喚されたけれど、なぜか猫の姿で顕現して。

 しかも魔王に拐われて現在は満月の間だけ猫獣人の少女の姿に変化しつつ、魔王城でぬくぬくと暮らしております美夜ミヤです。


「んにゃっ」


 やわらかな自慢の肉球を地面に下ろし、美夜は土魔法を発動する。

 創り出すのは、土壁アースウォールをアレンジした階段だ。

 2メートルはある城の外壁に沿って顕現させる。


(うん、よし。私ったら天才! これで外壁に登れるわね)


 猫の性分なのか。

 高い場所に昇りたくて仕方なくなっての、苦肉の策が土魔法を使っての足場作りだった。

 階段も一段の高さは控えめにしてあるので、子猫の美夜でも登りやすい。

 こちらの世界に転移したばかりの頃に比べて、美夜も成長しているのだ。


 大きさ的に考えると、大体生後四ヶ月ほどか。

 ミルクはとっくに卒業し、離乳食も必要ない。

 とは言え、まだまだ子猫の月齢で身体もふわふわと小さいまま。

 過保護な魔王サマは相変わらずで、この小さくて愛らしい子猫ボディの召喚勇者にメロメロだった。

 大事にされるのはやぶさかではないが、元来子猫という生き物は好奇心が旺盛なのだ。

 そうして、魂の持ち主たる羽柴美夜という女性もまた、知識欲が旺盛な性質だった。


 屋敷の外の世界が見てみたい。

 あの高い塀に登ったら気持ちが良さそう。

 あと、せっかく剣と魔法のファンタジー世界に転移したのだから、どうせなら魔法を使ってみたい!


 子猫と美夜の欲望が微妙にシンクロし、当面の目標が決まった瞬間だった。



◆◇◆



 生後四ヶ月ほどの大きさに成長した子猫は魔王城を自由に歩き回っている。

 自慢の真っ白な毛皮に良く似合う、首輪代わりに結ばれた青いリボンには魔王の紋章が刺繍されていた。


『閉じ込めてばかりではストレスが溜まって病気になってしまうそうですよ?』


 魔王アーダルベルトが唯一、頭が上がらないエルフのメイド長にそう指摘されてから、渋々と城内お散歩を許された美夜は彼女に感謝のふみふみをしてあげた。

 柔らかな太腿を真剣な表情で揉み込んでやったのだ。

 無心でマッサージしていたが、ゴロゴロと喉が鳴ってしまったのは少しだけ恥ずかしい。

 魔王アーダルベルトが物凄い顔でこちらを眺めていたが、知りません。

 固くてやたら筋肉質な男の太腿など、もう二度と揉みたくはない。


(誕生日プレゼントとして、一度だけマッサージしてあげたけど、めちゃくちゃ硬くて大変だったもの!)


 貧弱な子猫の肉球でのふみふみマッサージは鍛え上げられた最強の魔王、アーダルベルトには全く通用していなかったと思うのだが、少しは気持ちが良かったのだろうか。


 ちなみに魔王城を闊歩する自由を許されはしたが、そのリボンには二重三重にも魔王アーダルベルトの結界魔法が施されていた。

 心配性も極まった魔王である。


(我、勇者ぞ?)


 ふすん、と鼻を鳴らす美夜。

 正式な術式で召喚された彼女はステータスにもしっかり『勇者』の称号がある。

 まぁ、スキルはかなりしょぼいが。

 転生だか転移特典だかで、【全言語理解自動翻訳】スキルや【全属性魔法】、お約束の【鑑定】スキルはあるのだが、固有スキルの【猫ぱんち】【引っ掻き】【咆哮】【毛玉吐き】とは、いったい何なのだろう。ふざけないでください。

 こんな攻撃で歓喜の悲鳴を上げるのは魔王くらいのものだ。


(……あれ? 魔王が悲鳴を上げるのは、むしろ逆にすごいのかな?)


 ちなみにマトモなスキルや使える魔法が何もなかった美夜だが、なぜか魔力量は膨大だった。

 鑑定したメイド長が「魔王様と同量⁉︎」と驚いたほど、らしい。

 猫ではあるが、やはり勇者なのか。


(勇者は勇者でも、巻き込まれ系勘違い勇者説に銀貨10枚!)


 ちなみに、勇者にゃんこの全財産です。




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