第16話 お散歩です

 

(魔力があるなら、私も魔法が使えるんだよね? 鑑定では【全属性魔法】が使えるみたいだし。……よし、勉強しよう!)


 やる気に満ち溢れた美夜ミヤは魔王城の蔵書室に入り浸り、読書に励んだ。

 まずは「スライムでも分かる魔力制御の本」を紐解いて、わりとすぐに魔力の制御の仕方をマスターした。

 異世界の言語は召喚された際に自動で付与された【全言語理解】スキルのおかげで、苦もなく読めたので、余裕である。


 そうして美夜は暇さえあれば、魔王城の蔵書室に潜り込み、初級魔法から上級魔法、何なら禁忌の書までひたすら読み漁ったのだった。

 おかげで、今では全属性の魔法を使える、天才魔法子猫ちゃんにレベルアップしました!


 自信満々に魔王へ風魔法を披露して「さすが勇者、それでこそ我が最大のライバルよ!」発言を頂きました。ドヤッ。


 今では四属性魔法だけでなく、希少な空間属性もマスターしている。

 ラノベ界隈で有名な、あの【アイテムボックス】スキルだ。

 収納容量は魔力量に準じるので、現在の美夜だと、首都ドーム五つ分といったところか。

 亜空間を作り出す魔法なので、お約束通りに内部の時間は停止している。

 生き物は収納不可なのは残念だけど、収納物が劣化しない仕様なのはありがたい。


 せっかくなので魔王におねだりして、お腹が空いた時用のおやつを大量に収納してみた。

 ついでにメイド長やメイドさんたちにもお願いして、ふかふかのクッションや肌触りの良いブランケットも譲ってもらう。

 これで遊びに行った先でお腹が空いたり、眠くなっても大丈夫!


 美夜はピンと髭を立てて胸を張る。

 ハラハラする魔王に「可愛い子には旅をさせるものですよ」と耳打ちしたのは、もちろん、子育ての大ベテラン、エルフのメイド長だった。



◆◇◆



 準備万端、本日は快晴。

 冒険日和なのを確認して、美夜はウキウキで魔王城の外へ抜け出そうとしていた。


(せっかくの異世界だし、魔法も覚えたからには、冒険をしてみないとね!)


 満を持して、魔王城の裏庭に土壁アースウォールを放ち、立派な階段を作り上げた美夜は意気揚々と可愛らしいマシュマロのような四つ脚でぴょん、と階段に飛び上がる。


(意外と高いわね、お城の塀……)


 途中休憩を挟みつつ、てちてちと登り切った時には達成感に包まれてしまった。


(着いた! さぁ、偉大なる一歩よ、勇者ミヤ!)


 土魔法の階段を登った先の外壁は、小さな美夜にはかなりの高さだ。

 外側を覗き見ると、なんと断崖絶壁だった。ぶわわっと白猫の尻尾がぱんぱんに膨らんだ。


 そう、実は魔王城は魔の山の天辺に建てられていたのだ。

 勇者と対決する際の雰囲気作りに拘った魔王によってロケーションが選ばれたらしい。


(景色が悪い! 最悪!)


 緑豊かな美しい山脈ならまだしも、魔の山は草一本生えていない岩山だ。

 活火山のようで、そこかしこで湯気が見える。

 冒険どころか、ピクニックもごめん被りたい景色だった。

 美夜はしょんもりと肩を落とし、土魔法の階段を伝って庭に戻った。


 出迎えたのは満面の笑みの魔王、アーダルベルトだ。


「どうした、勇者よ。我が魔王城からの雄大な景色は気に入らなかったのか?」


 雄大な景色とは。

 チベスナ顔になった子猫を魔王は慣れた手付きで抱き上げる。

 お姫さま抱っこ体勢でキープしようとするので、美夜はいつもするりと抜け出して魔王の肩に移動する。

 へそ天姿勢で抱っこなんて、大抵の猫が嫌がるものだが、アーダルベルトは気付いていない。

 睡魔に負けて、その姿勢のままウトウトしてしまい、魔王にお腹を吸われて悲鳴を上げたのは、つい先日のこと。


(私の自慢の腹毛で猫吸いするのは、高くつきますよ?)


 ふすん、と鼻を鳴らす美夜は、高くつくぜ発言を耳にした魔王が、わくわくしながら大量の金貨を目の前に積み上げる未来を知らない。

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