「ちなみに貴方にソレを刻んだ炎神の印は各家庭に1つはあるわね」


 さりげないトンデモ発言に一瞬脳がフリーズした。沢山あるほど強いとは言うが流石に各家庭はやり過ぎではないだろうか。


「アレの場合はテキトー過ぎるのヨ。もうすぐお昼出来るからお皿準備シテー」


 ジュワーっと音を立てながら何かを炒め始めたアニーさん。いい匂いが今まで忘れていた感覚を思い出させる。腹がぐーっと盛大な音を立てた。そうだ、俺腹減ってるんだ。ソレを自覚した瞬間にジワジワと感情が荒ぶってきたのを感じる。


「コウタちゃん、窓の向こう側にあるモノ見えるカシラ?」


「!……はい。空と波……海ですか?」


「そう!キレイよネー。好きな食べ物とかあるカシラー?」


 好きな食べ物……。必死に頭をひねっても出てくる言葉は何も無い。今まで何を食べていたんだったか。思い出すのは味のわからない豪華な飯ととびきり美味い濃厚スープ。


「食べられるなら何でも良い。けど、えっと。カボチャスープ……と水」


 必死に絞り出した言葉はカボチャスープ。それしか知らない、という訳では無いハズなのにそれが一番美味しいと思えた料理だった気がする。あとあの魔法のような水、アレは最高だった。でも、どこで飲んだんだったかは全く覚えていない。


「今はマダ甘みの足りない次期だから期待通りの濃厚かどうかは悩ましいケレド。とびきり美味しいの検討しとくワネ。はい、お昼にするワヨ」


「あ……ありがとう!めっちゃうまいです」


 口の中へいれる度に食べたいという感情が強まっていく。まるで、腹の中に別の生き物がいるかのように自分の食べたいを追い抜かす“食べたい”が現れる。


「おま、それおれのだよ!」


 ライムの皿の上からヒョイと野菜をとると、キレだした。それはそうだろうと頭ではわかるが、食べようとする身体を抑える事はできない。それだけこのご飯が美味しいという事だろう。


「アラーいい食べっぷり、やっぱり……。セナはもうイイのカシラ?」


「うん、お腹いっぱい。それにあんまり食べすぎると動けなくなるし」


 手を合わせて皿を片付け、そそくさとカバンに物を詰め始めたセナさん。


「この後どこか行くんですか?」


「アナタも行くのヨ?」


「俺も?」

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