あたたかな湯につかり頭の中で今の状況をまとめた。とりあえずは例の陰謀論の収集だ。しかも巷で出回っているこされまくった出し殻みたいな薄味のものでなく、さっき飲んだ濃

 厚なスープみたいな上質なやつをだ。


 俺が知っているのは六つ葉のクローバーだけだ。それが何を意味しているのかなんて知らないし、何でそんなものが世間を騒がせているのかもわからない。


 それにクローバーといえば大体が三つ葉だろうし、幸運の象徴とか言われる四つ葉ならまだしも何で六なんだ。この際わからないことは保留していこう。


 次に重要であるとすれば、アイツがなぜそんな言葉だけを言い残したかだ。アイツがやっていたのはただの研究だ。世界の本当の歴史について調べまわっていた。気になることと言えば一つだけ、何でも教えてくれたアイツが研究の内容だけはあまり教えたがらなかったこと。


 面白くないからと、言い訳とするにはあまりにも苦しい言い訳でアイツは俺から歴史を隠そうとした。唯一教えてくれたのは現在の王家の家紋とその由来、今の王家は自分達を世界のすべての富を一身に抱いているライオンだと思い込んでいるだけで本質はただ怯えながら草を食むウサギなのだと。


 恍惚とした表情を浮かべ普段は決して使わない汚い言葉で罵る友が頭の中によみがえる。奴らは偽物だ、嘘つきだ、背信者だと口調を荒げる姿が。


 今の王家は偽物、昔聴いたときは自分をクビにした今の王家が嫌いなんだなくらいにしか思わなかったがもしかするとあれが答えだったのかもしれない。


 そこまで思考が及んだ時に、ふと意識が深く沈み込んだ。自分が夢を見ているのだということが何となくだがわかった。


 それはとても狭くて暗い場所。人の大きさの箱があって、ソコに閉じ込められたらこんな感覚なのかもと、思ってしまうような場所。どうしてそこにいるのかはわからない。ただ、その夢はかつて見たことのある俺自身の記憶なのだということをはっきりと自覚していた。


 目の前の壁の更に向こう側に足音が聞こえてきた。だんだんと息が苦しくなってくる。


 全身が燃えるように熱い。顔にかかった熱風に後退る。さっきまでただの壁だったはずなのに急に背中に強烈な痛みが走って反射的に前に飛び出した。あまりの痛みに背中に触れる勇気すら起こらない。


 いつの間にか全方位を囲んでいた壁はなくなって今度は火の海に取り囲まれていた。

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