エピソード34 神父が残したもの
約1年ぶりに札幌の地を踏んだ美宇と翼。
相変わらず札幌の町は「死んだ」ように壊滅していたが、あの教会は1年前と何ら変わっていなかった。
教会前にバイクを停め、中に入る。
大きなステンドグラスが飾られている大聖堂に足を踏み入れる。
何もないと思われたこの札幌浸礼教会。しかし、一つだけ異なるところがあった。
「なんだ、あれは?」
目ざとく気付いたのは、美宇だった。
教会には、
これは教会によって異なるが、朗読台のように造られたもの、階段上になった場所の上に造られたものなどがあるが、この教会では比較的目立つ位置に、この講壇が築かれてあった。
その上に、白い物を見つけた美宇が、近づいて行った。恐る恐る翼も後を追う。
それは、封筒だった。
白い封筒になっており、封は閉じられていた。
ただ、目についたのは、その宛名だった。
表面には、
―翼と美宇へ―
と書かれてあったからだ。
「おいおい、どういうことだ。私たちは教会に知り合いなんていないぞ」
明らかに怪しんでいる美宇が、封筒の裏を見ると、そこには、
―
という文字が書かれてあった。
それがきっかけだった。
美宇の頭は、再び過去の映像を映し出すように、映像を投影し、彼女には頭痛が襲った。
「ちょっと、大丈夫、美宇?」
うずくまる彼女に、翼が心配そうに駆け寄る。
しかし、彼女は見ていた。
その映像の中身は、不思議な物で、過去の美宇が映っていた。しかし、彼女自体に記憶はない。
その映像の中で、美宇も、そして翼もある神父にかしずくように、頭を下げていた。
まるで従属でもしているかのような不快さを感じさせるような映像だった。
さらに、その神父によって、頭を触られている映像もあった。
(これは、洗礼か? 湖上神父?)
記憶を奪われ、明確には覚えていないはずのその名前。
しかし、その名前を思い出すだけで、美宇は心の奥底で、嫌悪感のような物を感じるのだった。
(過去に一体何があったのか。これを見ればわかるのか?)
頭を押さえながらも、恐る恐る美宇は、封筒にナイフを向けて、そして封を切った。
中には、細長い一通の紙が入っていた。
開くと、手書きの達筆の文字で、次のように書かれてあった。
―すべての真実を知りたいなら、函館の五稜郭に来ることだ―
(五稜郭。幕末の遺跡か)
記憶を奪われながらも、美宇はかろうじて覚えていた。
五芒星の形をした、西洋式要塞跡。幕末に建設され、そして明治維新の頃、戊辰戦争の最後の戦い、箱館戦争の舞台になった場所。
「翼。お前、湖上という名前に心当たりは?」
ようやく頭痛と映像が収まった美宇が尋ねる。
「湖上? うーん。知らないけど、なんか引っ掛かる名前だなあ」
(やはりか)
美宇が予想した通り、恐らく翼もこの湖上と関わっているのだろう。記憶を操作され、明確には思い出せないようだったが。
だが、
「いずれにしても、五稜郭に行けばわかるか」
そう言って、美宇は手紙を翼に放り投げた。
空中でその手紙を受け取った翼が目を走らせる。
「なんか、よくわからないけど、行ってみよう、五稜郭」
「ああ」
こうして、彼女たちの「真実を知る」最後の旅が始まった。
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