エピソード31 オンネトー
その後、阿寒湖を離れた二人は、自動食糧生産工場を求める意味合いもあり、周辺を色々と走るのだった。
もっともガソリンには限りがあるため、たまに町によっては給油し、様々な場所を巡った。
日本で一番寒い街、
気が付けば、釧路周辺から十勝地方にいたる道東の一部を一周していた。
それでも広い北海道においては、わずかな地域だった。
そんな中、彼女たちは最初に通った時に見逃していた場所があったことに気づく。
それは、阿寒湖から足寄町にいたる国道241号の途中にあった。
2回目に通った時、翼は看板を見て、道を左折した。
その先、深い森の中に存在していたのは、神秘的な湖だった。
「オンネトー? なに、ここめちゃくちゃ綺麗!」
思わず叫びたくなるほど、興奮気味に翼が吠えていた。
そこには、陽光に照らされて、キラキラと湖面が光、しかも湖面がエメラルドグリーンに輝いていた。
「オンネトーか。確かアイヌ語で『年老いた沼』だったか『大きな沼』だったかな」
「へえ。さすが北海道。本当に自然が綺麗だね」
などと翼は感無量のようだったが、彼女は目ざとく近くにあった看板を見つけてしまった。
「なになに。オンネトー湯の滝だって。ねえ、ちょっと行ってみない?」
「ああ、それ。昔は露天風呂だったらしいけど、今は確か禁止だったような」
記憶の底に何故か眠っていた知識を、美宇が掘り起こして言うと、翼は、「露天風呂」の方に強く反応した。
「露天風呂! よっし、着替え持って行こう!」
わざわざバイクに戻り、リアキャリアから着替えとタオルを持ち出していた。
渋々ながらも美宇も着替えとタオルを用意する。
ちなみに、オンネトーの湖畔からは、車やバイクで走れる道はないので、徒歩で行くことになる。
それほど遠くはないが、それでも山の中を数十分は歩かないと着かない。やがて着いた先には、確かに「滝」があった。
いた。
翼が触ってみると、
「暖かーい。こりゃ、いい温泉だよ。でも、さすがに滝だと滝行になっちゃう」
と嘆いていた。
「もう少し周りを探してみよう」
さすがに、詳細な温泉の場所までは美宇も知らなかった。
すると、この滝の上に小さな池があり、そこがちょうどいい「自然の温泉」になっていた。
「見つけた! 入ろ!」
言うが早いか、翼は服を脱ぎだした。
「仕方ないな」
美宇が渋々ながらも、頷くも、内心、彼女も楽しみではあった。
もっとも内心では、
(そりゃ、こんな世界じゃ人がいないし、覗きはないかもしれんが、熊が怖い)
と思っていた。
ここは北海道。しかも暖かくなってきた季節。いつ熊が出てもおかしくない。
しかし入ってみると、翼の言う通りだった。
近年の地球温暖化の影響もあるだろうが、6月の北海道にしては暖かく、眩しい陽光に照らされ、しかも水の中は思ったよりかなり暖かった上(実際の温度は43度くらいと言われている)、ここは驚くべき透明性を誇っていた。
水面から池の下の底までかなりくっきりと見える。
「気持ちいいー」
「ああ。しばらくちゃんとした温泉入ってなかったからな」
こんな世界だ。
気軽に日帰り温泉に入れるわけではなかった。
それでも、女性としては、定期的に風呂に入りたくなるものらしい。
彼女たちは、道中、自然の温泉を見つけては入るようにしていた。
もっとも、美宇が薄っすらと覚えていたように、ここの温泉は、微生物によって酸化マンガンが生成される現象が発見され、保護のため入浴禁止となっている。
北海道に再び「短い夏」が訪れようとしていた。
そして、間もなく彼女たちが北海道巡りに出発してから1年が経とうとしていた。
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