エピソード2 外の世界への第一歩
階段を上った先は、ちょっとした宗教施設のようになっていた。
つまり、長い回廊があり、古代ギリシャのような円柱形の柱が並んでいた。中庭の向こうに尖塔があり、どこか教会のような雰囲気のする建物だった。
一見すると、中世ヨーロッパのようなこの建物。
だが、そこは西洋ではなく、日本だった。
その証拠に。
「さっぽろ……教会?」
……の部分を「読めない」翼が、言葉を濁した。
壁には、簡易的な掲示板があり、そこにいくつかの「紙」が貼られていた。その紙の下部に、記載した責任者と思われる、恐らく代表者の名前が書いてあった。
「多分、札幌
代わりに、美宇が答える。
なお、「浸礼」とは、バプテスト教会( Baptist Church)を意味し、これはバプテスマ(浸礼での洗礼)を行う者の意味に由来しており、イングランド国教会の分離派思想から発生したキリスト教プロテスタントの一教派と言われている。
最も、二人にその知識はなかった。
だが、何だろう。このそこはかとなく感じる「
ただし、今は季節が夏だったから、それは錯覚に過ぎない。
それでも目の前に広がる光景に、翼も美宇も声が出ずにいた。
まず、人がいない。「人っ子一人いない」とはまさにこのことで、静かすぎるその空間は、まるで誰もいない「広場」のように広々としながらも、存在感がない、もの悲しさを感じる。
「みんなどこに行ったんだろ?」
呑気に呟く翼に、鋭く指摘したのは、美宇だった。
「それより食糧! あと水! まずそれを確保しないと、死ぬよ」
言われてようやく、翼も目を見張った。
早速、空腹で死にそうな状態と、日が暮れて暗くなる前に、二人はこの教会を探索する。
人は、本当に誰もおらず、あの衛兵も含めて「忽然と」消えていた。
そこには動物もいなかったが、先程の地震で建物自体に損傷が出来ており、壁には亀裂が走っていた。だが、建物自体は無事のようだった。彼女たちのいた牢屋を除いて。
「あ、あったよ、メシだ!」
早速、目ざとくみつけたのは、翼だった。
彼女は壁に描かれてあった、教会の見取り図を参考に「倉庫」と書かれた、地下室に降りた。美宇も従う。
そこには、棚に積まれたダンボール箱が無数にあり、中には食糧、それも恐らく「保存食」と思われるレトルト食品がいっぱい入っており、賞味期限がまだ1年ほど先だった。
とりあえず目下の食糧を確保したが、それ以前に、その食糧を入れる「袋」もなければ、移動する「手段」もないことに気づく二人。
「もう暗いし、明日にして、とりあえずこれを運ぼう」
「そうだね」
美宇に促され、彼女たちは、そのレトルト食品のうちのいくつかを持ち出し、階上に上がる。
見取り図によると、1階は礼拝堂、2階は
1階は、よくあるような、西洋式の教会そのもので、吹き抜け構造になっており、2階への螺旋階段を上ると、左右に大きく分かれた回廊があり、その左右に懺悔室、寝室、応接間があった。
彼女たちは、そのうちの応接間に向かう。
建物の右奥にあるそこは、扉の鍵が開いていた。
重そうな鉄の扉を開けて、中に入ると、思ったより広く、豪華なソファーとテーブルが置かれてあった。
二人はまずそこで腹ごしらえをする。
先程、拝借してきたレトルト食品。それは「親子丼」と「レトルトカレー」の、いわゆるレトルトパウチ食品というものだった。
ただし、
「ご飯がないし、暖める物もない」
過去の記憶が欠落していた彼女たちだったが、その手の知識だけは覚えていた。
「しょうがないんじゃない。灯りもないし、今日はこのまま食べて、さっさと寝よう」
「うー。冷たい」
文句を言いながらも、空腹で死にそうな翼は、レトルト食品のパックを開け、そのまま口にしていた。
ステンドグラスの窓から差し込む、わずかな月明りだけを頼りに、彼女たちは「冷たい」食品を、喉に流し込むだけの、ひもじい晩飯を取る。
外の景色は、それこそ「死んで」いた。
月明りに照らされて、建物が浮かび上がっていたが。
そのどれもに「灯り」はなく、そして所々が崩れていた。
人の気配が全くない、死んだ街。
そこは、かつて北海道の中心部にして、人口190万人以上が住んでいた、巨大都市、札幌だった。
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