終末の北海道
秋山如雪
シーズン1 夏
エピソード1 絶望と希望の狭間
そこは、暗い地下室だった。
ほとんど光も差さず、灯りもない。かろうじて、廊下に繋がっている、地上へと続く小さな窓から差し込む弱い光だけが、昼夜の判断になっていた。
そこには、元々、複数の人間がいた。
いや、「いた」というよりも「幽閉」に近かった。
かつては衛兵のような男たちが見張りにつき、幾人もの女たちが、いや「女だけが」閉じ込められるように、その広い空間にいた。
広い空間 ―まるで体育館のような― 広大な空間に、幾人もの女性が、まるで「罪人」のように閉じ込められ、そして「生かされて」いた。
彼女たちは、食料だけを与えられ、ごくたまに水浴びを許されただけの、「生きている奴隷」みたいなものだった。
だが、いつからだろう。
一人、また一人と彼女たちの人数が減っていった。
それは、「病気で亡くなったケース」、「絶望の果てに自殺したケース」、そして「どこかに連れて行かれたケース」などに分けられた。
そこは、人類の「ディストピア」にして、「絶望の淵」のような監獄だった。
事実、勝手に抜け出すことはできず、もちろんインターネットも使えず、電話も持たされず、鉄格子に阻まれ、彼女たちに「一切の自由はない」、死の世界だった。
そこは、いつの間にか、二人だけになっていた。
「
「ん-。寝てる」
仰向けのまま、少女が声をかけ、別の少女もまた仰向けのまま答えた。二人の下には、粗末な布のような敷物があるだけで、薄い布の服を着て、その身体の上に質素な毛布があるだけだった。
「起きてるじゃん」
二人の少女、その名は、「翼」と「美宇」。共に16歳。
翼と呼ばれる少女は、身長が160センチ前後。肉付きがよく、活発な印象を抱かせる女性で、肩までかかる黒髪の美しい髪が目立つ。小さな鼻と、少し細いキツネ目が特徴だった。
一方の、美宇。こちらは小柄で華奢な体をしており、トレードマークとも言えるのは、ピンク色の細いフレームの眼鏡だった。それを常にかけており、髪は無造作なショートヘアー。丸い目と、柔らかそうな頬が特徴だった。
一見、活発そうな翼の方がロングヘアーで、おとなしそうな美宇の方がショートヘアーだった。
「みんな、いなくなったね」
翼が着ている服は、質素な布の服で、まるで囚人服のような粗末な素材で出来ていて、上はワンピース型になっており、下はかろうじてスカートのようになっていたが、裾は破けていた。
「そうだね」
一方の美宇の方も、基本的には同じような囚人服のような物をまとっていたが、下はズボン型になっていた。
「どこに行ったんだろうね」
「田中さんが連れて行かれたのは、ちょうど1週間前だった」
田中さん。おしゃべり好きで、明るい30歳くらいの女性で、彼女に関して言えば、絶望の果てに自殺したという選択肢は考えられないと翼は思っていた。
事実、田中さんは、1週間前の昼に、衛兵によって連れ去られるように、この牢獄を出ていた。
その衛兵が、昨日と今日の2日間、まったく姿を見せないのが気になった。
というより、定期的に食糧を持ってきてくれる、衛兵がいなくなって、彼女たちは今、猛烈な空腹に晒されていた。
つまり、このままだと下手をすれば餓死をする。
今が何年の何月何日で、何時かもわからないまま、彼女たちが無為に時間を潰すように「寝て」いたのは、少しでも空腹を紛らわせるためだった。
だが、
―グゥゥウウウ―
腹の虫は、容赦がない。どちらの腹の音か、この際、どうでもよかった。
「お腹空いたねー。私たち、このままこんな地下室で死ぬのかな」
「それは嫌だね」
いつからだろう。
物心つく頃から、彼女たちはここに閉じ込められた気がするし、そんなに前ではなく、数年前のような気もしていた。
つまり、彼女たちには「記憶がない」、あるいは「記憶を操作」されていた。
そこには、世間に公表できない、秘密があるようだった。
そして、そんな絶望の淵にいるような彼女たちに、「希望」の光とも言える、出来事が起こる。
その日の夕刻。
西日が差し込む頃だった。
―グワァーーーーーン!―
突然、地面が大きく揺れていた。
そして、瞬く間に、彼女たちは立っていられなくなっており、地面に臥したまま、時が過ぎるのを待った。
地震だ。
それも相当大きい。
この地下牢もまた大きく揺れていたが、もし天井が崩れでもしたら、彼女たちは「生き埋め」になり、恐らく簡単に「死」を迎えるだろう。
だが、この地震は「天祐」となった。
―ガシャーーーーーン!―
衝撃音が走った。というよりも、物凄い轟音だった。
鉄格子に、上から落下した何か大きくて重い物体が当たり、鉄格子が大きくひしゃげて曲がっていた。
つまり、「隙間」が出来ていた。
ちょうど、そのタイミングで地震が収まっていた。
「翼!」
「うん!」
美宇に促され、翼は彼女の後に続いて鉄格子に向かう。
鉄格子は、人1人、それも「細い」女性なら、かろうじて抜け出すことが出来るように上手く曲がっていた。
そこから這い出るように出る二人。
外の世界だ。
鉄格子のある牢屋のような体育館のような、広い空間を出た彼女たちは、階段を上る。
その先には、西日に照らされて輝く大地と、建物があった。
ただし、その風景は「死んで」いた。
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