純愛宣言!【男女恋愛/テーマ:ヤンデレ/舞台:現代】
前略。私、西内あずさ、十六歳でようやく初彼氏が出来ました!
ここまでの道のりは実に長かった。男心も世間の流行りも何もわからず、どこをどう変えていけばいいのかわからなかったのだ。
しかし近所に住んでいる年上の幼馴染、かずにぃこと和明さんに色々アドバイスをもらって、何とか彼氏ゲットまでこじつけたのだ!
今日はそのお礼のため、かずにぃのおうちまで遊びに行く。色々相談に乗ってもらった時、子供っぽくて「彼氏ゲットのため」と言わなかったから、伝えたらきっと驚くだろう。
かずにぃの反応が楽しみで仕方なく足取りが軽くなる。驚いてくれるかな?かずにぃが驚くところなんて全然見たことないから想像できないけど!
なんやかんや考え事しつつもすぐにかずにぃの家に着いた。ピンポンを鳴らすとすくにかずにぃが出てきた。
「やあ、あず」
「かずにぃ久しぶり!」
ドアから出てきたかずにぃは相変わらずかっこよかった。昔からモテるだろうなと密かに思っているけど、かずにぃに彼女がいるという話は聞いたことない。きっと私のことを子供だとからかって隠しているにちがいないけど。
「さぁ、早く上がって」
ひとつひとつの動作がかっこよく、ザ・大人という雰囲気を全体的に感じる。同じ学生といっても高校生と大学生じゃ大きな差があることを会うたび感じる。
かずにぃの部屋に入り、用意してくれた紅茶を飲みながら最近学校であった出来事などなどを話した。
「それであず、話したいことって何かな?」
かずにぃから本題を切り出される。言おうと決意したのは自分だが、実際に言おうとすると緊張で鼓動が早くなる。でもせっかく協力してくれた恩人だし、お礼をしっかり言わねば。
「じ、じつはね。彼氏ができたの」
私の言葉を聞いた瞬間かずにぃの体がピシッと固まり、かずにぃの手からコップが滑り落ちて割れた。
「だ、大丈夫!?」
しばらく固まった後、突如エラーが治ったかのようにもとに戻った。いつもと変わらない笑顔だけど、目がまったく笑っていない。
「突然やってきたと思ったら浮気の報告?ひどいなあ、あず」
え?浮気?どういうこと?その問いを口から出すタイミングもないままかずにぃは言葉をまくしたてる。
「あーあ折角会えるのを楽しみにしてたのになあ。突然浮気だなんてひどいよ。僕何かひどいことでもしたかなあ?こんなに僕たち愛し合ってるのに」
「え、でも」
ようやく言葉を発せると思ったが、かずにぃの指で口元をしぃーと押さえつけられる。反射で口を閉じてしまう。
「じゃあ聞くけどさ、あず」
かずにぃがとんとんと子供を諭すような柔らかい声で囁く。
「あずにファッションのアドバイスをしたのは誰?」
「かずにぃ」
「あずに付ける香水のアドバイスしたのは?」
「かずにぃ」
「じゃあ、あずに色々料理の作り方を教えてあげたのは?」
「……かずにぃ」
「あずに全て教えてあげたのは、『彼氏』の俺だよね?それなのに、なんで他の男の名前出すの?あ、それとそいつに弱み握られたのかな?」
「そういうわけじゃない!」
「ならなんで?」
話が明らかに通じなさそうなかずにぃに対して言葉が詰まる。
「ああそうか。忘れちゃったのか。もうあずったらドジだしおっちょこちょいだし忘れっぽいからな。むかし初めておつかい行ったときも、帰り道で迷子になって公園で泣いてたよね」
どうしてそのことを知ってるの。その疑問は口に出せることのないまま搔き消された。
「じゃあもう忘れられないようにしようか。本当はもっとゆっくりいきたかったけど、まあ仕方ないね」
かずにぃが机から引っ張ってきたのは、ビデオカメラだ。
「これに向かって、『私の彼氏はかずにぃです』って言って。そうしたら浮気を許してあげる。あずの彼氏は誰なのか、忘れないように記録しなきゃ、ね?」
許すもなにも、浮気なんかしてない!そう言い返したいのに、恐怖で喉から声が出ない。
「そんなにいやなの。なら別にこれでもいいんだけど」
目の前に並べられたのは、それぞれ形状が違う薬とナイフ。
「な、なにこれ」
「あずに残された選択肢だよ」
るんるんと、自分の宝を見せるかのように鼻歌をうたいながら説明する。
「薬を飲んで、俺に身を任せるか。この薬たちはそれぞれ効果は違うよ。多分死なないとは思うけど、保証はできないかなあ」
「もしくは、俺を刺してこの部屋を出るか。鍵を無理矢理開けるのはこの手段しかないね。あずにそんな勇気があればだけど」
笑ってない眼が私へ視線を向けてくる。心臓が棘でちくちくと刺されていく感覚。逃げ道が塞がれていくのはわかるけど、どうしても何か行動に動かせなかった。力が抜けて動けない。
そんな私を見たかずにぃはにこっと笑って問いかける。
「ねえ、あずさ。また友達に会いたい?」
穏やかな表情となだめるような声。だけどその言葉の裏に隠されている真意に気づいて、喉からひきつった声が出る。正しい選択肢を選ばなければ。焦りで喉がつまる。
「俺ね、無理矢理っていうのは好きじゃないの」
「今日は、あずさが俺を怒らせちゃったからちょっと手荒いかもしれないけどね。でも恋人ってお互いに気持ち通じてなきゃいけないと思うんだよ」
「お互いを思いやる恋人になるなら、合意を経て、ね。そうだよね」
真綿で首を絞められる感覚に冷や汗が止まらない。喉から絞り出されるようになんとか言葉をつぶやく。
「わたし、西内あずさは、かずにぃと付き合ってます。他の人とは付き合いません。ごめんなさい」
「よく言えました!あずは偉いねえ」
これで解放される。そう思っていた私は甘かったことをすぐに突きつけられる。
「じゃあそんな偉いあずなら、浮気相手くんに別れの電話できるよね」
「え?」
「なんで驚いてるの?俺が彼氏ならその男必要ないよねえ?なら今すぐ別れるって電話で言いなよ」
「ら、ラインじゃだめなの」
「だめだよ。メッセージアプリじゃ相手がいつメッセージに気づくかわからないでしょ?それに、直接伝えなきゃ勘違いするかもしれないでしょ。あずさを騙した男なんだから」
有無を言わさぬその声、そして流れるように渡されたスマホには付き合いはじめた彼氏のトーク画面が表示されていた。
「さぁ、はやく」
震える手でなんとか電話をかける。すぐに彼は出てくれた。
「もしもし?突然どうしたの」
何も知らぬ彼のいつも通りの声に、助けを求めてしまう。でもそうなればかずにぃに何されるかわからない。恐怖を見せないようになんとか取り繕う。
「あのね、別れてほしいの」
「は?なんで、」
「とにかく別れて!お願い」
彼の疑問に答えることのないまま、通話を切る。最後に今自分が出せる一番小さな声でごめんね、とつぶやいた。相手に聞こえなくてもいい。ただ自分の罪悪感を消し去りたいために言った。この言葉がかずにぃに聞かれていませんように。ただ切実にそう願った。
電話が切れた後、恐る恐る後ろを振り返る。かずにぃの顔に普段の笑顔が戻っていた。
「ちゃんと電話できたね。偉いね」
かずにぃのその言葉を聞いた瞬間涙が止まらなくなった。安心と恐怖でどうにかなりそうだった。
「よしよし、もうあんな男と関係は消えたんだからもう泣かなくていいんだよ」
「やっぱりあいつに脅されていたんだね。可哀想に。もう怯えなくて大丈夫」
「そうだ、しばらくは僕が送り迎えしようか。そうしたらもう安心だよね。怖くないね」
かずにぃの一方的な会話に応える元気はなくなっていた私は、ただその場で座り込んだ。
「そうだ、あずに渡すものがあるんだ」
そういってかずにぃが持ってきたのは小さな白い箱。箱を開けると中に入っていたのは、指輪だった。
「なに、これ」
「これ?婚約指輪だよ。予定が合わなくて会えなかったけど、覚えてるかな?一昨日はあずが僕に告白して十二年目の記念日だったんだよ?それも忘れちゃった?悲しいなあ」
大切な思い出を話すかのようにうっとりとした表情を浮かべている。だけど私はそんなこと覚えていない。
「あずが高校生になったら渡そうと思っていたけど、僕記念日大事にしたいからさ、告白記念日に渡すことにしたんだ」
笑顔のかずにぃに嵌められた指輪は、私の薬指に恐ろしいほど心地よくフィットした。
「これでもう忘れないね」
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