私のハロウィン
境ヒデり
揺れる灯火
私は、ハロウィンが好き。
でも、別にハロウィンだからって特別仮装をしたり、近所の子供達にお菓子を配り歩いたりはしないけどね。
玄関にカボチャのランタン置いてみたり、家の中を少しそれっぽく飾り付けてみたり。ほんとそれ位。
「……貴方が亡くなってから、もう5回目のハロウィンだよ。ふふっ、懐かしいなぁ。貴方と一緒にハロウィンを過ごせていた頃は、2人で変なコスプレして近所の笑いものだったね」
昔──という程前では無いが、時間が経っても色褪せない懐かしい記憶に思いを馳せて、私は亡くなった旦那の写真に向けて独り言を呟く。
私の旦那は、5年前の丁度この時期に息を引き取った。
学生時代にカナダへ留学に行った際、そこで一目惚れをしたのが馴れ初めだ。
普段なら絶対男の人に連絡先なんて聞けないが、我ながらあの時の自分は行動力が凄かったと思う。
それからは、しばらく遠距離の関係が続いていたのだが、彼が日本に移住したのをきっかけで付き合い、結婚へと至った。
彼は、イベント事に対して毎回超が付く程真剣で、今となってはどうでも良い私の誕生日も、少し引いてしまう位のサプライズで心からお祝いしてくれた。
私は、そんな彼と過ごすイベントがとても大好きだったし、今でもハロウィンの日にこんな飾り付けをするのも、きっとその名残から来てるのだと思う。
カボチャのランタンに灯っている火が揺れているその横で、満面の笑みを浮かべている彼と、それに釣られて笑顔を浮かべている私が映った写真。
他の写真は、彼が亡くなった時に見ていて苦しくなる為押し入れにしまったのだが、この写真だけは動かせなかった。別に、特段思い入れがある写真じゃ無い。日常の1枚。だけど、これに映っている彼の笑顔が、ずっと私を見守ってくれている気がして。
その写真を見つめていると、私の頬を一滴の水滴が滴り落ちていくのに気付いた。
彼の事で私が泣く事なんて、あのお葬式の時以来だ。
「あーあ……やっぱり寂しいなぁ……」
この写真を見ていると、どうしても彼との幸せに満ちた記憶が頭の中いっぱいに広がってしまう。
「貴方はさ、私と結婚して幸せだった?人よりも短い人生で、私を選んで後悔しなかった?」
こんな事、今更悩んだって遅いのに。
いつもなら、こんな事に悩んだり絶対しないのに。ちょっと感傷的になっちゃったな。
私は、次から次へと溢れてくる涙を拭き取り、夕飯の支度をしようと立ち上がった。
するとその瞬間、ランタンの中に灯っている火が激しく揺れた。今までのゆるやかな灯火じゃなく、明らかに激しい揺れ。
風なんてどこからも吹いてないし、私が立ち上がっただけで火が揺れるとも考えられない。
その光景に驚いていると、横の写真にある英文が浮かび上がってきた。
『I loved you because it was you(君だから愛した)』
しかしその文字列は、驚きで瞬きをして、次に目を開いた時には消えていて、激しく揺れていた火も元通りに。
きっと、今起こった事を他人に言っても勘違いだと流されてしまうだろう。
だけど、私は見た。
キッチンへ行く為踵を返した私は、その際に写真の中で笑顔を浮かべている彼へ向けて言葉を投げかけた。
「全く、ハロウィンだけじゃなくて、お盆にもちゃんと顔出しなさいよね?貴方と結婚した私は、日本人なんだから」
私のハロウィン 境ヒデり @hideri46mizu
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