最終話『希望』
それから数週間後、怪我をした片手に包帯で固定したまま、接客をする風馬の姿が中華の満腹亭で目撃されるようになる。
その噂を聞き付け、フジキが見舞いも兼ねて沙織里と共にやって来る。
「いらっしゃいませえ!──って、フジキちゃんに沙織里ちゃんじゃないか。久し振りだね?」
「そうっす、ね?」
「せっかく来たんだ!大将の料理食って行きなよ!大将!」
「あいよ!聞こえているよ!風馬の兄ちゃん!──って、まだ怪我が治ってねえんだろが!大人しくしていろや!」
「なに言ってんすか!客さんが戻って来て忙しくなるんでしょう!?
俺だけ休んでいるなんて──」
「良いから休んでいろ!光癒も帰って来たんだからな!」
そう言われて風馬はしばし、黙り込むと舌打ちして外へと出ていく。
「・・・風馬様。だいぶ荒れておりますわね?」
「うん。最近、ずっとピリピリしていて風馬さんが怖い顔をしているんだよ」
「・・・やっぱり、石川県で起きた災害が自分のせいだと思っているんすね。おまけに在住していた正義さんって人まで亡くなってしまって」
「本当に・・・どうしたら良いのか解らないよ・・・グスッ」
「ああ。泣かないで光癒ちゃん。光癒ちゃんが悲しいとわたくしまで悲しくなってしまいますわ」
沙織里はそう言って光癒を抱き締め、フジキが荒んでいる風馬の背中を見詰める。
「こんな時はどうしたら良いんすかね?」
「だったら、お前達で災害のあった石川県に行って来い」
そう言ったのは亭主の三平であった。
「此処でウジウジしていても何も始まらないだろう。それに人手も足りてねえ筈だ」
「構いませんのですか、おじ様?」
「ああ。俺も風馬の兄ちゃんには早く良くなって貰いたいからな」
「・・・お父さん」
「ただし、危ないと思ったら、現地の自衛隊とかの言う事はキチンと聞けよ?」
「「はい!」」
───
──
─
「・・・んで、俺達は被災地にやって来たと?」
「うん。困っている人を助けるのが、お侍さんのお仕事でしょう?風馬さんだって、どうすべきか悩んでいるんじゃない?」
「確かにそうだが・・・」
風馬は現地を訪れて惨状を見て、とても光癒のように前向きにはなれなかった──だと言うのに現地の人間は風馬達をすんなりと受け入れた。
当然、迷惑系のUチューバーなどが問題視されたが、風馬達は正規の応募から復興支援に参加した身である。
特に風馬のまだ不完全ながら振るう炒飯は評判が良かった。
「・・・」
ありがとうと言う感謝の言葉と触れ合う手の温もり。それらが風馬を困惑させた。
「・・・ここの人達は強いな」
「きっと、支えてくれる人達がいるからだよ」
「そっか・・・羨ましいな」
「風馬さんだって皆に支えられているし、皆の支えになっているんだよ。
誰かが助けたら、他の人も手伝ってくれる。そうやって、人の和は繋がっていくんだから」
「流石にそれは大袈裟な絵空事だよ」
「でも、だからこそ、人は頑張れるんじゃないかな?
少なくとも私はそう思うよ?」
そんな優しい言葉に風馬は「そっか」と呟く。
実際に訪れて被災地の惨状を見て、言葉を失った。
人の負の念が濃厚で自分の罪だと言う念が心を縛った。
しかし、それと同時に希望を捨てない人々や小さな命を救おうとする人々の想いにも触れた。
人の負の念は確かに存在する。しかし、逆もまた然りである。
こんな状況だからこそ、団結する人間の意志と強さを目の当たりにして風馬は己の未熟さを痛感した。
令和6年の4月を迎え、これから春の暖かさを迎えようとする中、今日も被災地の人々は災害に負けぬように生きる事と戦っている。
復旧や復興はまだまだ、これからだが、被災地への募金などは既に開始されている。
どんなに辛くとも希望を持って進む事をしている人々がいる事を忘れてはならないだろう。
令和・退魔侍録~失業一歩手前になった俺の前に天使の生まれ変わりの女の子が現れて、その子の侍になりました~ 陰猫(改) @shadecat_custom5085
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます