第20話『武芸大会・2』

 ──武芸大会。風馬の2戦目は今回の目玉である木更津正義との試合であった。


「・・・今日は随分と張り切っているようだな、風馬殿?」

「ああ。ちと、一番弟子に背中を押されてね・・・悪いけれどマジのマジで行かせて貰う」


 そう言うと風馬は普段から抑えている霊力を解放する。

 その圧倒的な霊力に対し、正義も霊力をもって応える。


「本当に全力なのだな?・・・なれば、私も本気で応えるが礼儀」

「悪いな。最強の一角の胸を借りさせて貰う」


 達人同士の全力を出しあった剣圧に審判はおろか、観客さえもが見守る。


 ──ピシリ。


 達人同士の霊力のせめぎ合いに耐え兼ね、体育館の窓に亀裂が生じる。

 それと同時に風馬が地を蹴った。


 風馬の最大の剣技──それは即ち、心技体の一体から繰り出される速剣であった。

 あまりの速さに高性能カメラでも風馬の姿を追えたかは解らない。

 そんな風馬は正義の後ろを通り過ぎ、その背後に佇み──


「──痛っ!」


 木刀を落として利き手を押さえる。

 正義を見れば剣を振り抜いた状態のまま硬直していたが、木刀に付着した風馬の肉片から伝う血に気付き、我に返る。


「──っ!先生!」


 周囲が凍り付く中で真っ先に動いたのはフジキであった。

 その声と同時にどよめきがわき起こり、負傷した腕を押さえる風馬に緊急時の医療スタッフが対応する。


「大丈夫ですか、先生?」

「・・・ああ。ゴメンね、フジキちゃん」

「馬鹿!こんな時に謝らないで下さいっすよ!」


 風馬はフジキに連れ添って貰いながら医療スタッフと共に退場する。

 当然ながら今回は不慮の事故による正義の不戦勝となると周囲も思うであろう。

 此処で大会の最高責任者が出てくる。


「え~先程の戦いは誠に残念では御座いますが、風馬君の不慮の事故により無効とさせて頂きます」


 その言葉に周囲がどよめく。不戦勝ならば、いざ知らず、無効試合となるのは流石に前例がない。

 そんなどよめく周囲を片手で制止ながら最高責任者である西郷秀吉は正義へと振り返る。


「正義君。見せておあげなさい。そうでなければ、納得出来ぬ方が多い。

 君の為にも風馬君の為にも、その傷を見せるべきだろう」


 そう言われて正義は少し躊躇してから上の胴着を緩め、肩から腰までに一文字に切れた傷を見せる。

 どよめく周囲を再び片手で制止ながら秀吉は言葉を続けた。


「見ての通り、正義君も傷を負っております。ただし、此方は物理的な打撲傷ではなく、霊力による傷で御座います。

 つまり、先に勝利を掴んだのは風馬君ですが、それと同時に先に怪我をさせたのも風馬君となります。よって風馬君の反則負けとなるのが妥当でしょうが、公式のルールとしても霊力による負傷を与える前例は御座いません。従って、その場合を加味するのであれば、正義君の反則負けとなるところであります。

 よって今回の試合は無効試合として扱わせて頂きます。先程も申し上げた通り、長年戦ヶ崎市で行われる武芸大会としては前例のない事ですので貴重な一戦で御座います。

 皆様方にも今後、公開出来るように慎重に審査致しますので今回は敢えて無効試合とさせて頂きます。引き続き、武芸大会で活躍する侍を応援下さい」


 その言葉と共に秀吉が一礼するとどよめきはやがて歓声となり、戦ヶ崎市の武芸大会はいつもの活気を取り戻す。




 ──武芸大会から数日後の令和6年元旦。


 石川県を襲った大地震が起こり、日本は再び不安と疑心に満ちた年を迎えるのであった。

 その惨状をニュースで見ていた信心深い風馬は神の怒りに触れた事による自責の念に囚われるようになる。


 風馬は今後、武芸大会に出る事はしないと固く誓うのであった。

 それ以降、彼が刀を持つ事をしなくなってしまったと言う。

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