第6話『百合(?)に挟まれていた侍』

「おーほっほっほ!聞きましてよ、光癒ちゃん!

 あなたも侍を雇ったんですってね!?」


 中華の満腹亭でかに玉チャーシュー丼を食しながら風馬は隣でまかないの半ライスとミニラーメンを食べる光癒に顔を向ける。


「誰?光癒ちゃんの知り合い?」

「もぐもぐ・・・ふあぇっ?」

「あ~っと光癒ちゃん、ほっぺにご飯くっついてるよ」


 風馬はそう言って光癒の頬についたご飯を取るとそれをパクリと食べる。

 それを見て、お嬢様っぽい女子高生が顔を赤らめた。


「ちょっと、そこのあなた!軽々しく光癒ちゃんとイチャイチャしないで!──と言うか、何を食べてますの!」

「何って・・・中華の満腹亭の侍限定メニューだが?」

「風馬さんが食べているのは中華の満腹亭に侍が入りしましたキャンペーンメニューの侍限定かに玉チャーシュー丼です。

 ふんわりかに玉に細切れにしたチャーシューとネギをトッピングして温かい特盛サイズのご飯に乗せた一品です。

 お財布に優しく、お侍さんである羽織と刀の所持と身元保証がわかるものがあれば、ワンコイン中です。いまならお得なクーポン券も発行していますよ」

「あらま。それは耳寄りな情報ですわね?──って、違いますわ!」


 一瞬、風馬と光癒のペースに呑まれそうになり、お嬢様っぽい女子高生は「ぜえぜえ」と肩で荒い息を吐く。

 そんな女子高生に亭主である天月三平が声を掛ける。


「誰かと思えば、沙織里ちゃんじゃねえか?・・・久々に甘口麻婆豆腐でも食ってくかい?

 いまなら光癒の友達って事で安くしておくよ。ついでにご飯とスープ付きでどうだい?」

「・・・いただきますわ」


 結局、流されて沙織里と呼ばれた女子高生は風馬達の向かいの席に座る。


「風馬さんと言われたかしら?──あなたが光癒ちゃんのお侍さんで間違いありませんのね?」

「まあね。光癒ちゃんがこんな状態だから、お互いに自己紹介といこうか。俺は風馬景信。光癒ちゃんの侍だ」

「私は千天善沙織里ですわ。こるでも上流階級──を目指している一般ピーポーですわ。おーほっほっほ!」

「・・・つまり、どこぞのお嬢様とかでなく、お嬢様っぽいだけの女子高生と?」

 かに玉チャーシュー丼を平らげ、風馬は「ごちそうさま」と手を合わせると光癒を観察する。そんな光癒を見る風馬を見て、沙織里も光癒を見る。


「・・・本当に光癒ちゃんを見ていると癒されますわ。あなたもそうではなくて?」

「ああ。そうだね──そう言えば、あなたも侍を雇ったのかって聞いてなかったっけ?」

「──はっ!そうでしたわ!」

「はいよ!中華の満腹亭特製甘口麻婆豆腐定食、お待ち!」

「あ、おじさま。相変わらず、ありがとうございますわ~」


 そう言って沙織里は真剣な表情で風馬を見据える。


「風馬さん」

「なに?」

「これからお食事にしますので少々、お待ちを」


 そう言われて風馬は机にゴンと頭を打ち付ける。

 そんな風馬を無視して沙織里は熱々の麻婆豆腐を口に含む。


「ん~・・・やはり、この味は堪りませんわ。程好い甘さと辛さの融合・・・おじさま、また腕を上げられましたわね?」

「がっはっはっは!おだててもなんも出ねえよ!」

「この麻婆豆腐を更にご飯に乗せて一緒に食べるとまた格段ですわ~。これだから中華の満腹亭のご飯は止められなくてよ~」


 そんな事を言いながら沙織里が甘口麻婆豆腐定食を堪能している間に風馬はようやく、食べ終えた光癒に質問する。


「光癒ちゃん。この子、誰?」

「ごちそうさまでした──ふぁっ!沙織里ちゃん!いつの間に!」

「一応、面識はあるのね?知り合い?」

「私のお友達です。沙織里ちゃんは凄いんですよ。

 私と同い年で色んな事を知っているんです。あとは将来、私の事をお嫁さんにしてくれるって言ってました」


「・・・は?」


 風馬は一瞬、とんでもない爆弾発言を聞いた気がした。

 いや、昨今を考えれば、そういう関係も駄目と言う訳ではない。


(まあ、当人同士が良いのなら良いのか・・・)


 風馬は自身を納得させると旨そうに甘口麻婆豆腐定食を食う沙織里を見やる。

 沙織里は本当にここの麻婆豆腐が好きなのだろうと言う事がよく解る食いっぷりであった。

 そして、完食して一呼吸置くとキッと風馬を睨む。


「食べながら聞いてましたが、わたくしと光癒ちゃんはそう言う関係ですわ!

 殿方など餓えた獣ですもの!光癒ちゃんはわたくしが守りますわよ~!」

「ああ。はいはい」

「ちょっと!その態度はなんですの!」

「侍は主君と恋愛とかしちゃいけないし、手を出しちゃいけないんだよ。つまり、俺は沙織里ちゃんの恋敵になるとか、そう言う関係にはならないの」

「──えっ?そうですの?」


 沙織里は拍子抜けしたような顔をすると風馬は「そうそう」と返す。しかし、何故かそれが沙織里をより興奮させた。


「そう言うのがあるのにあんな公の場で光癒ちゃんとチ、チューをしたんですの!?」

「ん?ああ。あれは俺も驚いたけれど、あれが光癒ちゃんなりの答えみたいだし」

「それで片付けてしまいますの!?」

「まあ、侍なんて使われてなんぼだし、そんな驚く事なのか?」


 怒りを通り越して呆れる沙織里に風馬があっけらかんと答え、沙織里は脱力する。


「はあ。もう良いですわ。わたくしと光癒ちゃんの恋路の邪魔をする障害だと思ってましたが、実際は違うのですね」

「ところで沙織里ちゃん。今日はどうしたの?」

「おっと、そうでしたわ。光癒ちゃんと冬休みの宿題をと思ってましたの。きっと陰陽師の勉強とか、よく解ってないでしょうから」

「相変わらず、沙織里ちゃんは優しいね?」

「当然ですわ。わたくしと光癒ちゃんは運命の糸で結ばれてますもの」

「えへへ」


 本当に意図が解っているのか、風馬は光癒が心配になったが、沙織里も強引な手は使わないだろうと思い、風馬は窓に映る青い空を眺める。

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