主人公は物語の始まりの時点でもすでに壮年といっていい年齢だ。
おそらくはその人生であったろう、さまざまな経験を胸のうちに収めて、すこし世の中と距離を置いた生活をしていたところ、幼い頃に一度出会った吸血鬼と運命の再会を果たし、淡々と日々を紡いでいる。
吸血鬼のほうは、存在の危機を経験し、生首だけの存在になっている。
どちらも、苦難を乗り越えてそこにあり、その苦難をもう「思い出」として整理してしまっている。
そんなふたりが紡ぐ日常は、優雅で、微笑ましく、そしてそこはかとない切なさが漂う。
『わたしが死んだら、きみのことをどうしようか』
主人公のこの独白の答えを出すための二十年の時間。
優しいラブストーリーです。