第28話 かわたれどき
今日も、街へ出た。夕暮れの道を家へと急ぐ。木立の間を縫って近道をする。見つけてからしばらく通っているから、獣道が出来てしまった。
「もし」
木立の影から、声がする。わたしはびくりと身体を震わせ、声の主を探したが見当たらない。こんな、極東では「かわたれどき」とか言われる時間に遭遇するモノ、警戒しない理由はないだろう。全身の毛が逆立ってゆく。
「あなたは本当に、あの首の彼と生きていくつもりですか」
彼のことを知っているのなら、一人しかいない。
「メルティアード?」
肩の力が少し抜ける。同時に、疑問が頭をもたげてくる。何故そんなことを問うのだろうか?
「誤解なきよう……僕だって彼を好ましく思っています。が、彼は自分の世話もままならない。幼子と永遠に共にいるようなものですよ?あなたにとって利益がない」
そんなこと。
「それが、愛情じゃないのかね」
メルティアードが黙りこくった。しばらく、沈黙の時間が流れる。言葉を続けた。
「心配してくれてありがとう。でもわたしたちは、もう20年この生活を続けているんだ。きみたちからしたら一瞬の年月だろうけど、わたしにとっては双方の益を実証するに十分な時間だった」
長く息を吐く音がする。ため息とも違う、安堵と仕方ないなぁとでも言わんばかりのもの。
「そう言うだろうとは、薄々思っていましたよ」
メルティアードが姿を現した。長いマントを着て、いかにも吸血鬼という風貌だ。夕闇の濃さで顔は見えない。
「僕としては、今後もあなた方のサポートをしていくつもりです。いろんな……場面でね。決断が済んだら知らせてください」
そう言うと、ぶわりとコウモリの群れが舞い上がり、空に消えた。残されたわたしはそれを見送り、家路を急ぐ。……彼も、つくづく優しい吸血鬼だ。
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