第27話 物語

 珍しく、調べ物ではない読書をしている。アメリカ開拓期の、開拓者家族の様子を子どもの視点で描く本。物語として読むものであるなら、土地の文化背景が知れるものがわたしは好きだ。

 アレクセイは自力で流水を渡ることができないのだという。だから吸血鬼になってからは、地続きの土地しか行ったことはないらしい。この海向こうの物語を読み聞かせてやったら、随分と面白がった。


 同じものを読んでも、彼と私では着眼点がまるで違う。わたしが作中の家を建てる時や熊の解体について興味深いと思うのに対して、彼はご婦人方の服の素材、その時代の捻挫の治療法などに興味があるようだった。全く噛み合わないようで、そうでもなく話が弾む。自分にない視点をもたらしてくれる彼は本当に対等で、近しい友だった。

 世話をすることにも随分慣れた。最初はさまざまなことが初めての経験で、疲労を感じることもあったけれど……つらいな、と思ったことは一度もない。これには、彼の人柄が大きく関係している。とにかく朗らかで、まっすぐで、褒めることや礼を言うことを全く躊躇しない。きっと育ちがいいのだろう。色々なことがあったが、今では彼を手放すことなど……到底考えられなかった。これは、噂話によるところの『魅了』なのかもしれない。

「そろそろ寝なくていいのかい?」

 甘え上手の彼がやってきた。膝の上にそっと着地し、上目遣いでわたしを見る。

「私も読みたいぞ!読み聞かせてくれないかい」

 笑って了承し、アルネに声をかける。本と彼を抱えて、ゆっくりと寝室へと上がった。

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