第26話 故郷
故郷から手紙が来た。兄弟夫婦が亡くなったという報せだ、もうあの屋敷に住む人はいなくなってしまったらしい。売り払っても大した値はつかないかもしれないが、兄の子供達が放棄した結果、わたしに委ねられるらしい。まぁいい、とりあえず来客の準備をしよう。
昨日会ったメルティアードが、今日この家にやってくる。アレクセイの状態を見るためだ。彼にも昨晩説明したが、同胞の存在に驚き喜んでいた。暖かく迎えてくれることだろう。ホットワイン、甘いパン、塩漬け肉。もしメルティアードが手をつけなくても消費できるものだけを用意した。青年(の姿の彼)はこの地の生まれらしく、住所を教えたらいとも簡単に把握したようだった。
玄関のベルが鳴る。彼を居間に通して、アレクセイと対面させた。彼曰く、首だけになっても生き残っている例は珍しいらしい。かろうじて生きていられても、その後の食事に難儀するからだ。わたしが彼を見つけたのは幸運という他ない。
「ここまでやられてしまうと、再生能力でも追いつかないでしょう。あなた、本当にこの方に感謝すべきですよ」
「いやはや、本当にそうだ」
言うなり胸の中へふよふよと収まり、「ありがとう……」と言って頬ずりする。見守っていたメルティアードが苦笑した。
「妬けちゃうなあ」
メルティアードが言うには、あの街は吸血鬼にわりと寛容らしい。というよりは、皆特に関心がなかったと。相手の素性や背景をいちいち詮索するほど、暇ではないというところだろう。
ひとしきり話し終えたところで、食事に誘った。メルティアードは興味津々だ、人間の食事は初めてだという。
「僕は吸血鬼として生まれたので」
なるほど。「口に合わなかったら残してかまわないから」と言い添えて、各々の分を取り分けた。
「本来の食事も必要なら、あとで血を……」
そういいかけたところで、アレクセイが勢いよくこちらを振り返るのが見えた。
「えっ?」
上擦った声。吸わせるのかい、私以外の奴に?とでも言わんばかりの目だ。どうどうとなだめていると、メルティアードが笑う。
「いいえ、横取りしては悪いですから……」
血を分けてくれる知り合いは沢山いるから大丈夫、らしい。ならばお言葉に甘えようか。
「しかし、とても魅力的なお誘いではあります」
そう言ってじっとりとこちらを見る。美青年、と呼んで差し支えない彼の、アイスブルーの瞳がキラリと光ったような気がした。アレクセイが慌てる。
「やらないからな!」
メルティアードは余裕の笑みだ。
「残念だなぁ」
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