第25話 灯り

 夕闇が深くなる頃。街の灯りが瞬きだす中を歩く。今日は食材の仕入れついでに、馴染みの眼鏡屋に来ていた。いつも通りの世間話。その時……口をついて出てしまった。

「もし、永遠の存在になったとしたら。……この世界は受け入れてくれるんだろうか」

 店主で親友のギオルゲは目をぱちくりとして、遠くを見た。やってしまった……顔を覆う。

「世界は知らんよ。……だが俺は受け入れる」

 ハッとそちらを見る。彼はニヤニヤと笑っていた。

「意外や意外、そういうモノは近くにあるもんだ。……ここだけの話、いるんだ。じいさんの代からウチに通ってる奴がよ」

 信じられない話だが……彼の同族が全くいない可能性は低い。上手く溶け込んでいるのだろうか。

「なんか事情があるんだな。……話してみろ」

 息子のイリエが素早く看板をクローズにし、灯りを絞る。そして「ごゆっくり」と言うと出て行った。


 わたしは話した。アレクセイの存在、生き方……愛してしまっていることさえも。彼は時々相槌を打ちながら聞いて、「ふうむ」と言ったきり黙り込む。

「一緒に老いていけないのは寂しさもあるが……俺が死んでも店に通ってくれるのは悪くない」

 それはそうだ。人の理を外れたら、二度とは戻れない。

「よく考えろ。そうして出した答えなら、後悔なんてしやしないさ」

 そう言って送り出してくれた。幾分か心が暖かい。帰り際に彼のくれたメモを握り締め、わたしはあるドアを叩いた。

「どちら様?」

 そう言いながら扉を開けてくれたのは、中性的で快活そうな若者だった。大柄なこちらを認めても、怖がるそぶりさえ見せない。声を潜めて言った。

「ギオルゲの紹介できました。私はザハリエ、ある吸血鬼をかくまっているんです。彼らのことを教えてほしい」

 そう言うと、彼の目つきが変わる。辺りの人目をうかがった後、家に入れてくれた。

「どんな吸血鬼なんです?同族にも攻撃的な奴らもいて……ほとんどのそういうのは滅びましたが」

 そう問われる。ギオルゲにしたのと同じ説明をもう一度した。

「安心しました。……その同胞は気が気じゃないでしょうね、こんなに美しい愛した人が老いていくなんて」

 うーん、どうにもそうらしい。そう答えると美しく笑った。

「僕はメルティアード。よろしく」

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