第23話 白

 いい洗濯日和である。庭に洗濯後のシーツがはためき、白い波のようだ。穏やかに揺れる白を見て、彼の髪へ思いを馳せる。昨日は泣き疲れたのか、彼が初めて私の胸で寝落ちした。そのまま朝になっても起きなかったので、絹糸のような髪を踏まないよう起きて、そっと彼の寝床に残してきたが。まだ気分が沈んでいるだろうか。

 白い峰の頂のような、誰も踏んでいない新雪のような、清廉な彼を想う。わたしは愛だとか恋だとか、あまり詳しくなかった。そこまで興味がなかったとまで言ってもいい。もっと興味を引くものが、世界には沢山あったからだ。


 けれど。彼を独りで遺していくのは……本当に嫌だ。わたしと同じように彼を迎え入れ、家に置いてくれる人もいるのかもしれない。その度に彼はその人を愛するのかもしれない。そう考えると……ひたすらに心が痛かった。それは即ち、彼と同じようにわたしもアレクセイを愛してしまっているということだろう。

 あの白い髪に結んだ、わたしの金色。繋ぎ止めたいという欲でべったり塗れた糸だ。それすら喜んで泣く彼を、置いて逝くのか。……永遠に。

 未だ答えは出ない。キャンバスは白いままだ。

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