第20話 たぷたぷ
風邪もすっかりよくなり、殊更に冷える晩のこと。暇を持て余したわたしは、あることを思いつく。こんな夜には、アレだ。ホットワインを作ろう。
材料は、安い赤ワイン一本とスパイスが色々。シナモンスティック、クローブホール、カルダモン。乾燥生姜に、ドライフルーツのリンゴ。コリアンダーに、キャラウェイのホールを少し。あとは砂糖とレモンの輪切り。全て鍋に放り込み、火にかける。材料さえ揃っていればいとも簡単にできるものだ。沸騰直前で火を止め、濾していく。適当でいい。飲む時に別でレモンやシナモンを添えてもいいようだ。
鍋の中でたぷたぷと揺れる液体。アルコールが飛び、スパイスの喧騒のような香りが満ちる。出来上がったものを大きめのマグカップに入れ、暖炉前へと運んでいった。
「なんて良い香りだ」
彼が嬉しそうに笑う。この味を好んでいるらしい。人間の食べ物は不要な彼らだが、受け付けないわけではない。わたしが焼いたパンや菓子など、嗜好品として楽しんでいる。アルネがパンくずをねだるのももう日常のひとコマだった。もっともアレクセイの場合、飲み込んだものがどこへ貯まるのかは分からないままなのだが。
出来立てをスプーンに掬い、少し息で冷ましてから、口元へ運んでやる。静かに飲み下して、キラキラと笑っていた。
わたしも一口啜り、顔を緩める。赤ワインをそのまま飲むのは渋くて好まないのだが、ホットワインは別だ。自然の恩恵を感じる雫が、喉を潤し、身体を温める。
「今回はジンジャーが多めだったね?身体が温まっていい」
飲み進めつつ彼の分析に花丸を出し、おかわりを取りに行く。いつもいつも、次の日へ残そうと思いつつ、飲み干してしまうのが常だ。今夜もそうなるに違いない。
一杯、また一杯と飲み進め、汗をかく頃には小鍋は空になっていた。腹は満杯、今度は鍋の代わりにこちらの腹がたぷたぷである。これで明日からも頑張れる。数日分の遅れを取り戻そうと、心に決めた。
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