第18話 椿
今日は大きな荷物が届く。わたしは柄にもなくそわそわしていた。彼にもそれが伝わっているようで、声はかけないものの、ちらちらとこちらを盗み見ている。
そろそろ予定時刻と思っていたところに、玄関のチャイムが鳴る。わたしは湯煎で温めていた缶コーヒーを袋に入れてひっつかむと、玄関へ急ぎ足で向かった。荷物は玄関に置いてもらい、配達員にコーヒーを渡して見送る。寒い中ありがとう、またよろしくの意を込めて。……さぁ、開封だ。
荷物を倒さないよう慎重に、温室の中へ。アルネが寝床から顔を出すと同時に、ついてきたらしいアレクセイもテーブルに着地する。厳重な封を解いて、最後のフィルムを外す。中に入っていたのは、極東の島国からの荷物だった。
「生きた木かい?」
彼が尋ねる。興味津々なようだ。
「そうだよ。ここ最近研究していた種だ。椿、と言う」
ちらほら蕾もついているようだ。こちらの寒さの影響が心配だったが、元気なまま届いてよかった。
「どんな花なんだろう、楽しみだな」
蕾を覗き込む彼に、集めた資料を見せようか迷う。が、やめておこう。お楽しみはとっておくものだ。
三日後。世話にも慣れてきた頃。朝からアルネが騒がしい。カラスでも入り込んだかと急いで温室を確認しに行った。しかし、平穏そのものだ。彼女は椿の植わっているプランターにとまり、チチチ、とこちらを呼んでいる。
「おお、咲いたか!」
少々声が大きくなってしまった。アレクセイがすっ飛んでくる。
「どうしたんだい!大声を出して!」
そう言われて苦笑した。びっくりさせたことを謝りつつ、椿の枝を指差す。
「ごらん、椿の花だよ」
彼はふよふよと椿に寄っていき、まじまじと花を見つめた。原生に近い種なので、一重咲きの赤い花。中心にはふっくらと濃い黄色のおしべが生い茂る。
「薔薇にもこんな形があるけれど、こちらの方が優しい印象だね」
「そうだね。……花言葉は『控えめな素晴らしさ』『気取らない優美さ』らしいよ」
そう答えると、彼は目をぱちくりとしてこちらを見る。そして優しく微笑んだ。
「なんてことだ。まるで君みたいな花じゃないか」
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