第8話 鶺鴒(セキレイ)
温室の外から、チチチ、と鈴のような声。一羽のハクセキレイがこちらを見つめていた。特段珍しくもなんともないが、可愛らしい鳥だと思っている。よく見ると、足首に何か引っかかっていた。あれは……リボン?
「アルネ……?」
後ろから声がした。声の主は彼、アレクセイ。彼はそばまで寄ってきて、足首のリボンを確認するとすぐ温室の外に続くドアまですっ飛んで行った。開けてほしいらしい。ドアへ向かって歩きながら一瞬、逡巡した。彼があの鳥を追いかけて行ってしまうのではないかと思ったのだ。けれどそれは……彼の自由だ、そうだね。
外へ続くドアから飛び込んだハクセキレイは、優雅にテーブルへと舞い降りた。彼の方を見ながら、チチチ、と鳴いている。
「そうか、ずっと探していてくれたのか……ザハリエ。こちらはアルネ、私の眷属だよ」
驚くべきことに、彼と鳥……アルネは会話が可能らしい。それが彼の眷属だからなのか、人語は全て通じるのかさえわたしには分からなかったが、とりあえず会釈して名乗った。
「こんにちはアルネ、わたしはザハリエ。彼と一緒に暮らしている」
チチチ、チチチ。彼が訳さないとわたしには分からないようだ。
「『こんにちは、彼を助けてくれて本当にありがとう』だそうだ」
礼を言われるほどではない。だってわたしは、ほんの幼い頃、先に彼に助けてもらったのだから。
「一緒に、行くのかい……?」
恐る恐る尋ねた。縛ってはいけないとは思いつつ、自分の心に嘘はつけない。わたしは不器用な人間だ。
「まさか!……しかし、ほっぽり出しておくわけにもいかない。君さえよければ、家族が増えても構わないだろうか?」
アレクセイはすまなそうに続ける。
「このお嬢さんは、食事は自分でなんとか出来そうだし……夜温室に入れてくれるだけでかまわない」
だから……ね?とでも言いたそうな目をしている。わたしは一人ほっとした。
「もちろんかまわないよ」
そう言うと、彼の顔が綻んだ。笑って返し、温室の一画をがさごそと探る。……あった。入り口の壊れた、少し大きめの鳥籠。埃を払って水をかけて磨き、温室の中に吊るす。アルネは早速中へ入り、止まり木に落ち着いた。
「ぴったりでよかった」
そう言えば、彼が嬉しそうに頷く。話し合いののち、彼女には朝と夜、温室のドアを開けて出入りしてもらうことになった。
「感動の再会だね」
「ああ、心残りが一つ減ったさ」
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