第6話 眠り
日中土いじりばかりしているわたしは、普段は寝つきがかなり良い方なのだが。その日の夜は全くと言っていいほど眠りの気配が見えない。原因に思いを馳せたり、これが老化かと落胆したり、うんうん唸っていると彼がやって来た。
「珍しいこともあるものだね」
彼は、眠らない。ベッドの横の椅子に、猫の寝床のように布を敷き詰めた場所を用意してはいるが、大体はそこでわたしの寝顔を見守っている。
「これが老化かねえ」
弱音を吐くと笑い飛ばされる。彼の快活な笑いは、いつも心地よかった。
「人間というのは短命だからね。……でも、それがいい味になるのさ」
自分で言っておいて、悲しい顔をする。彼はころころと表情が変わる人物だった。
「いつかは、死んでしまうのだね、君も」
彼の目が少し潤む、ように見えた。わたしとの時間を何より大切に思ってくれているのは嬉しい。けれど人である以上、定めからは逃げられない。答えの代わりに、彼を抱き上げて布団に入れた。胸元であやすように撫でる。夜着を抜けて、熱い雫が届いた。
「……わたしも、永遠の存在だったらよかったね」
彼はピクリ、とした。何か言いたいような、言えないような、逡巡の空気になる。何が言いたいのか、うっすらとわたしには分かる。吸血鬼は血を分け与えることで同胞を増やす……どこかの文献に書かれていた。
外部にバレなければ、永遠に研究を続けられるが、バレた時には、はたして。彼は自分の受けた仕打ちを、わたしには味わわせたくないのだろう。……彼が言い出すまでは、保留にしよう。そんな卑怯なことを考えながら、彼の頭を撫で続ける。
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