第3話 だんまり
彼はその日、温室の真ん中で黙って空を見つめていた。穏やかな午後の陽射しが、白い髪を銀糸のように煌めかせている。
彼は日光が苦手でないようで、よく植物の世話をするわたしのそばに来たがった。温室の真ん中にある丸いテーブルに、彼を抱いて運んでいく。
なんとなく首の傷に触れないように抱えると、頬を包むかたちになる。それが彼は嬉しいようで、いつもわたしの土やら草の汁の染み込んだ指をいとおしんだ。
今日は随分と静かだ。いつもなら、鼻歌を歌ったり、お喋りを楽しんだりと賑やかなのだが。合間のひと休みの時間、手を洗ったわたしは彼の元に歩み寄った。
「どうかしたかい」
彼は応えない。ぼんやりと、空を見つめ続けている。視線の先を目で追って、一羽のカラスを見つけた。
「カラスか……」
その単語に、彼がピクリと反応する。そのまま、視線を逸らさずに口を開いた。
「魔女狩りで首だけになったと思ったら、散々に突き回してくれやがって……嫌いだよ、あいつら」
完全にふてくされている。なんだか子供のようで可笑しくて、ついふふっと笑いが出てしまった。途端にまとわりつく、じっとりとした視線。
「すまない、珍しいものだから……再会するまでに、散々な目に遭ったのだね」
彼をそっと抱き上げる。言い聞かせるように優しく言葉を紡ぐ。
「気になるなら、鳥避けをつけてあげよう。でもきみは、小鳥が戯れてるのは好んでいるよね」
彼は頷いた。
「小鳥の群れも蹴散らしてしまうのがあいつらだ。本当に忌々しいよ……」
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