第2話 食事

 彼の食事は、十年ほど前まではわたしの血が主だったのだが。今はわたしが自分の庭やら温室から摘んでくる、薔薇の生気が主になっている。

「ほら、食事の時間だよ」

 そう言って、彼の特等席に花束……というにはあまりにお粗末な束ねた薔薇を持っていく。彼は笑顔を見せたのち、目を閉じて花束に顔を寄せ、深く息を吸う。薔薇は瞬く間に枯れてパキパキと音を立てた。カラカラになった薔薇は、暖炉の着火に一役買っている。


 彼はある時から急に血が受け付けなくなった。あまりに急なことだったので、当時のわたしは焦りに焦ったものだ……。が、しかし本人はどこか納得したような顔で花瓶に寄って行くだけ。そして深く息をするなり、挿してあった薔薇が全て枯れたのだ。

 事態の解説を求めると、彼は大層ばつの悪そうな顔で聞き流してくれるならと言う。

「私は……心から君を愛してしまったらしい」

 吸血鬼は、真実の愛を知ると血が必要なくなり、薔薇の生気だけで生きていけるというのだ。全く非科学的な話だが、そもそも彼等は非科学的な存在であるからそういうこともあるのだろう。なんとか絞り出した言葉は、応でも否でもなかった。

「きみが無事なら、それだけでいいよ……」

 実際、それだけでよかった。愛されていることについて嫌悪感もなかった、自分が彼を恋愛的な意味で愛しているかは分からなかったが。

 彼は大粒の涙を流し、何度も礼を述べた。男前が台無しである。ぐしょぐしょの首を抱き上げて涙を拭ってやった。これまで通りそばに置いてくれるかという問いには、「もちろん」と答えて。

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