ロキorロリ
黒や紫といった色が混じる光の世界。
肉体と精神が分離して、小悪魔の身体から外れた俺は、つい先ほど訪れていた光の世界に似た場所へ来ていた。
先ほどまで耐えていた痛みを全く感じない。
「……ここは」
見覚えのある世界に、俺はまた死んでしまったのかと思っていると、その考えに応えるように「君はまだ死んでいないよ」と声がかけられた。
その声の方へ振り返ると目の前には、カボチャのコスチュームを着た愛らしいロリっ子が立っていた。
ムフッ、と何やら誇らしげなロリっ子は元気いっぱいに名乗り出す。
「やあ、僕の名前はロキ!!悪戯の神だ。悪戯と甘いものがいーっぱいのハロウィンが大好きなのさ!」
ご丁寧に自分のコスプレしているわけも説明してくれた僕っ子ロリに俺はまた変なのが現れたと苦い顔を向ける。
「ロリ?」
「ロキ!」
しかし、ロリっ子は俺の失礼なんぞこれっぽっちも気にしないかのように
「哀れなキミに僕からこの世界を生き抜くスキルをやろう。キミにピーッタリないいやつ!」
俺の目と鼻の先まで近づいてきたロリっ子は嬉しそうに鼻歌まじりで俺の返事を待つ。
でも、俺は
「………あ、そういうの結構です」
「えー!?なんでぇ??せっかくのチャンスなのにぃ」
納得していない様子で大きな目をぱちくりさせながら、俺の胸元を掴んでぶんぶんしてくる。
ええい、うっとうしい!!!
そんな神様を無理やり引き剥がす。って、ほっぺ柔らか!
「ロリだっけ?」
「ロキ!」
「もう、うんざりなんだよ。神様とかそういうのに振り回されるの。俺らみたいな人間のこと、ただのおもちゃくらいにしか思ってないんだろ?」
「それはある!!」
「あるんかい!」
「君たちを見守る事が僕達の楽しみなんだ。送り込んだ人間がどう生きていくのか見るのが娯楽なんだ。ゲームしてるのと同じ!」
「このロリ、堂々と言いやがって!」
「ロリじゃない!ロキ!……でもキミこのままだと虐げられたままで終わっちゃうよ?それでもいいの??」
「……ッ!、それは、、、」
このロリっ子痛いところをついてくる。
やられっぱなしってのは性に合わないし、あのバカ3人組の鼻っ柱をへし折ってやりたいとも思う。
でも、今は珍しく内気な気持ちが湧いてきて……
凜と蘭の件であったり、これからも続くであろう今回のような理不尽な仕打ち。
そんな、これから起こり得るであろう全ての事象を想像する度、俺にもう諦めろと言ってくる…………
力を手に入れたらこの世界は続き、いつか2人と向き合わなければならない日が訪れる。
そうなるくらいならいっそのこと、ここでリタイアしてしまった方がいいんじゃないか。
俺の心の迷いに追い打ちをかけるようにロキは
「君は蹴られて殴られて嫌な思いをしたんだよね?悔しいと思ったんだよね?……ううん、転生するその時だってふざけるなって思っていたはずだよ」
必死になって俺に生きろと説得する。
「……なんで、そんな事まで知ってんだよ……」
心の内を何もかもを見透かされているのが気に入らなくて不貞腐れた顔でロキを睨む。
しかし、ロキは誇らしげに
「ふふん、僕は神様だからなんでも知っているのさ」
と、鼻高々に言ってくる。
「あっそ」
「いや〜〜、でも君も災難だったね。まさかあの、ワルキューレに転生させられる羽目になるとは」
あのふざけた金髪女神を知っているということは、今更ながらであるが神様ってのは本当らしい。
見た目ロリっ子は、その容姿にあった表情で愉快そうに
「あの子、昔は戦える子なら男の子、女の子関係なく異世界に送ってたんだけどね〜。キスする度に女の子の唇じゃないと満足できない体になっちゃって、今は男の子お断りなんて宣言出す始末でさ〜〜。天界のお偉いさん達も冷や汗が止まらないって嘆いてるんだよねwww」
「……、、、。まて、俺そんな理由でスキルもらえなかったの!?!?」
ワルキューレと呼ばれたムッツリ金髪女神の男嫌いはなんとなく察していたつもりだったが、あまりにも無情すぎてツッコまずにはいられない。
「まあまあ、落ち着いて。事実、君の悪戯には目に余るものがあったから。地獄からの招待状はきていたんだけどね。あと、人間にするには魂が汚れすぎてる。天界のものたちはみんな君が大嫌いさ!」
「、、、俺泣くよ??」
胸を張りながら堂々とばっちい扱いを受けて嫌われてる宣言をされれば、メンタル鬼の俺でも傷つくことくらいある。
(でも、いいもん。俺だって神とかそういうの大嫌いだし)
心の中でささやかな抵抗をしているとロキが
「でも僕はそんなキミに夢を見た!なんてたって悪戯の神様だからね。キミが愛おしくってしょうがないのさ」
その表情は、容姿に似合わないほど慈愛に満ち溢れていて
「キミがこの世界を、これから訪れる運命を憎む気持ちは理解している。でもそんな理不尽な現実をキミはずっと悪戯を仕掛けて変えてきたはずだよ?」
ロキから告げられた言葉が胸を熱くした。
………そうだ、そうだった。俺はいつだって理不尽な事に、耐え難い現実に悪戯をして最後は自分が笑える未来を勝ち取ってきたんだ。
「………」
俺の表情を見てロキは、フッと確信を得た笑みをこぼす。
「使うも使わないのもキミ次第。悪戯好きのキミへこのスキルを」
そして
ロキは対面している俺の後ろの方を見て
「………誰かに成り代わる事を夢見たキミにはこのスキルを」
「え?」
ロキの視線を追って後ろへと振り返る。
そこには、しゃがみ込んで蹲っている小悪魔がいた。
「お前は……」
「この身体の本来の持ち主。キミの魂が身体に入った事で今から失われる魂でもある。」
「!?」
「残酷だろ?この世界は神の娯楽の上に成り立っているんだ。神が描くシナリオに必要のないキャラクターは消される。ここはそんな世界なんだよ」
「………」
向き直って見えたその表情は、どこか怒っているように感じて。
そんなロキの表情を見た俺は口を強く結び、
「俺は、俺をわらった奴らを笑って見返してやりたい」
ロキに宣言する。
これから起こり得る厄災を全て面白おかしく変えて生き抜いてやると。
そして振り返り、これから消えゆくもう1人の俺に
お前が今までやられてきた分。全部ひっくるめて俺が笑いに変えてやると。
約束する。
覚悟は決まった。
向き直った俺は、ロキの頬へと手を伸ばす。
キラキラと輝く宝石のような瞳は閉じられ、俺を受け入れる事を了承する。
小さく柔らかなぷっくりとしたピンク色の唇を親指でなぞってから顎を優しく持ち上げ自分のを重ねる。
とろん、と。頭の中が真っ白になった。
怖くはない。むしろ、余計な考えや感情が全て包まれ、とけていくような幸せな感覚。
その感覚が全身を駆け巡ると次第に体は火照り、心底から力が湧き上がってくる。
僅か、数十秒の間で自分が新たに生まれ変わったかのような感覚が体に馴染む頃。
静かに目を開け、結ばれていた唇をそっと放す。
少し頬が紅潮しているロキを見ていると、釣られて恥ずかしくなってくる。
小さい頃に凛と蘭とした遊びのキスとはまた違った、大人のキスに照れる俺を見てロキはニカっと大きな笑顔を見せた。
「君の活躍楽しみにしてるよ!」
その表情は、これから始まる楽しい事を待ちきれない子供そのもので。
だからだろうか?その期待に応えたくなる。
「ああ、見ててくれ」
俺は、自信たっぷりの笑顔をロキに向けて言い放った。
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