ジャックorオランタン

 意識を取り戻すと、目に映るのは怪しげな三日月が浮かぶ赤紫色の空。


 その光景が先ほどまでとは全く異なって見えて、見慣れた、、、馴染んでいる。が一番正しい言葉かもしれない。


 不思議と先ほどまで感じていた耐え難い痛みも消えており、なんなく立ち上がる。


 俺が死んだと思ったのか、魔物3匹は俺に背を向け下卑げびた笑い声をあげながら、この場を立ち去ろうとしていた。


「おい、ちょっと待てよ」


 服についた土埃を落としながら声をかけると、


「「「あん!?」」」


 凄みを利かした声を上げる魔物3匹が睨んでくる。

 

 その向けられる敵意も威圧感もいまは全く動じるに値しない。


「すごく気分がいいんだ。今ならボコボコにしてくれた事、土下座して謝ったら許してやるよ」


 馬鹿にしたような笑みを3匹に向けて言い放つ。


 すると、


 よほど、俺の発言が意外だったのだろう。


 それぞれが目を丸くしては、お互いの顔を見合い少しして、何が面白かったのか3匹が腹を抱えて笑いはじめた。


 そして、俺を取り囲むと。


「ゴミ悪魔が俺らになんつった?あん?もう一回言ってみろや!」


 オークが鼻息を荒げ言ってくる。その声は相当な憤りを感じて。


 やっぱり、さっきの笑いが理解できない。


 まあ、それも今の俺には小物の戯言にしか思えなくて。


「まず、その言い方から変えろよ。そうだな、俺の名前……」


 魔族は名前をつける習慣がない。いや、訂正。


 実際、魔族にも名乗ってる奴らはいる。


 さっき、言ってた“リリス”とかいう幼なじみにも名前がある様に。


 しかし、俺を含めこの3匹のような存在は名前を名乗る事を良しとされていない。

 

 なぜなら、この世界で名を名乗ると言うことは、魔王を志すという事に直結するからだ。


《恐怖の象徴となり得る名は、その者の力を表す》


 名は体を表すという、ことわざがあるように。魔族の世界は力があり、相応しい者だけが名を名乗る事を良しとされている。


 俺はといえば、別に魔王になりたいわけでもないんだが、“おい”、とか、“お前”って言われる事に憤りを感じてしまう。

 それは、人間の性なんだなと思う。


 それに、いつか凜と蘭と戦う事になるのだ。それなら、“勇者と魔王”同程度の目線で向き合いたい。


 だから俺は、魔族の世界で頂点に立つ!


《“魔王”に!!!俺はなるっ!!!!》


 そうと決めたら、あとは名乗りを上げるだけだ。


「俺の名前は【ジャック】。【ジャック=オランタン】だ。これからそう呼んでもらおうか」


 『ジャック=オランタン』といえばハロウィンの象徴だし。


 思えば。ハロウィンの日からすべて始まり、この小悪魔の小さな容姿もハロウィン好きのロリっ子神も。


 そして、与えられた《スキル》ともピッタリ合っている名前だ。


 名前を言い放つと3匹の表情は正気を疑う様子で固まっている。


 それほど、名を名乗るのは魔族にとって憚られる事なのだ。


 そんな素っ頓狂な表情の魔族3匹に追い討ちをかけるように。


「おい、豚。さっきもう一回言ってみろって言ってたな。聞こえてなかったのなら1匹ずつ丁寧に言ってやるよ」


 俺は怪しげな笑みを浮かべ


《スキル》

 【トリックオアトリート】

〜相手に強制的な二択を迫る能力〜

その選択肢に沿うような力を発現させ、その力は際限なく溢れてくるため、絶対勝利を約束する。


を発動させた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る