かくれんぼ

外の気温はわずか1桁しかない時期が

いつの間にかやってきた。

暖房をつけても寒くて、

なんとかしのごうと

暖かい上着を持ってくる。

クローゼットの中はいつしか

夏物が詰まっていて、

すっかり季節は変わってしまったよう。


寧々「よいしょっと…。」


上着に加えて膝掛けも引っ張り出す。

冷え性には辛い季節。

お風呂に入っても暖まれる時間は短く

すぐに湯冷めしてしまう。


それから机に向かう。

まだ右手は痛むから

今日は暗記重視の勉強。

サポーターをつけた右手が痛々しい。


今日から冬休みだけれど、

学校からの宿題はなかった。

受験勉強を頑張れ、とのことらしい。

考えてみれば残りの登校日数は

あと1桁回しかないし、

宿題がないのは

当たり前と言えば当たり前なのだろうが、

何だか本当に終わるのかと実感が湧いた。

いや、まだ受験は終わってもいなければ

まだ始まってないとすら

言える段階だけど、

高校生活の終わりが

本当に見えてきてしまって

少しびっくりしている。


英単語帳を開きながらも

頭はどこか上の空。

単語が目には入っているし、

ちゃんと正解はしているはずなんだけど、

頭には全くと言っていいほど入ってこない。


本当にいろいろあった高校3年間だったな。

不登校だった1年生、

真面目に学校に通い始めた2年生、

不可思議なことに巻き込まれた3年生。

不可解なことはお母さんに話していないけど、

ずっと支えてきてくれたことに

感謝しなきゃいけないなと思う。


私が学校に行っていないときも

行き始めた時も、

多くを語らずお弁当を作っては

応援してくれたのはお母さんだから。

だから、お母さんを

安心させるためにもと思って

真面目になろうとしたんだっけ…?

でも、だからと言って

別に敬語でクラスメイトと

関わる必要はないよね。

なんて思うけど結局癖で

抜けないんだろうな。


お母さんは大学への進学も応援してくれた。

何故か目を惹かれては

これだと思った児童相談所に就くため、

専門の学部…つまりは心理学部に

進みたいって伝えた時も激励してくれた。

応援してくれたからというのももちろん、

やっぱり自分の目指すところに行きたい。

その一心で苦手な世界史にも手を出す。

英単語は一時休戦、

付箋を挟んでは世界史の

一問一答を開いた。

その時、こんこんと部屋の扉が鳴る。


寧々「はーい。」


お母さん「体調はどう?」


寧々「たくさん寝たしだいぶ良くなったよ。」


お母さん「そう…よかった。」


寧々「心配かけてごめんね。」


お母さん「ほんとよ。ずっと机に向かってるから…倒れたって学校から連絡があった時もびっくりしたし…。」


昨日倒れた後、

嶋原さんが保健室の先生に伝えに行ったのか

目を開いた時にはそこのベッドで

横になっていた。

そしてノートを見せられて、

その文字の量に狂気を感じては

あれこれ伝えられたっけ。

それから嶋原さんは帰って、

お母さんが迎えにきた。

「心配した」って何度も言われて、

私そんなことしてたんだって漠然と思った。

自分が何晩も寝ずに

勉強してたなんてきいて、

流石に自分事とは捉えられなかった。

過眠する方でもないけれど

私はショートスリーパーじゃないし、

徹夜することはまだしも

何晩もともなれば話は違う。

そんな切羽詰まってたんだっけと

思ったのが最初だった。


不意にあの文字だらけのノートが過ぎる。

あれも、誰かがいたずらで

入れたんじゃないかとすら思ったけれど、

嶋原さんが

「このノートを書いてたでしょ」と

実際言っていたし、

多分私のなのだろう。

彼女が嘘をついていなければ、だけど。

でも、この腱鞘炎を起こした右手を見れば

やはりたどり着く答えは私なのだ。


お母さん「ロールケーキ買ってきたけど食べる?」


寧々「うーん…後でにしようかな。」


お母さん「わかった。冷蔵庫に入ってるからね。」


寧々「お母さんは今食べたい?」


お母さん「ん?ううん、ご飯の後でいいかな。」


寧々「はーい。」


気の抜けた会話をしては

お母さんは部屋から出ていった。

まるで昨日倒れていたなんて

夢の話のようで、

どっちが現実なのか

わからなくなってしまいそうだった。


どうしてロールケーキなんて

珍しいものを買ってきたんだろう。

そう思って徐にスマホを開くと

そこには12月23日の文字。


寧々「そっか、もうクリスマスか…。」


多分明日や明後日には

また別の場所でケーキを買うんだろうな。

今日はたまたまスーパーに行ったら

目に入ったから買った…といった具合だろう。


世界史の一問一答を閉じる。

今日は何だか全くと言っていいほど

集中できないな。


なんだろう、何か引っ掛かっているみたいな。

何か海の底に足を

引っ張られ続けているみたいな感じがする。

何かが気になるんだけど、

何かがわからずもぞもぞとしている。


寧々「…?」


何がこんなに引っ掛かるんだろう。

何に後ろ髪を引かれているんだろう?


鞄の中に入れっぱなしだったノートを

思わず引っ張り出す。

そして最初のページを巡った。


寧々「…ん?」


そこには、何故か篠田澪の文字はなく、

その代わりに箇条書きで

いろいろと記されていた。


『宝物は引き出しの中、

手紙はその横。

篠田澪を忘れないで。』


これじゃざっくりとしすぎていて

予測すら立てられないじゃないか。

それくらい焦っていたということだろう。

なんのことだかわからなかったけれど、

次のページから篠田澪とだけ

書かれたページが連なっていた。

初めの方は字が整っていた。

走り書きとは言え読める程度。

だが、何日経ったのだろう、

だんだんと字が崩れていった。

部首がぐちゃぐちゃになっていたり、

左右で傾いていたり。

ペンを全部の指で握って

書いたのかと言うほど

筆圧が強く小学生みたいな字になってゆく。

中途、あまりにも形が崩れすぎて

読めない箇所もあり、

ひらがなになってはまた

辿々しい漢字に戻っていった。


寧々「…ここまで手書きなんて…。」


信じられない。

人間というのは本当に訳がわからない。

ここまでできることがまず恐ろしい。

ノートはほぼ使い終わっていた。

隅から隅まで小さい文字で書かれており、

ページが進むごとにどんどん大きさは

ばらばらになっていく。

けれど、総じて小さくなって

いっているような気がした。

敷き詰めていれば

覚えているわけでもないだろうに。

なのに私は書いていたらしい。


そっと黒鉛でぐしゃぐしゃになった

ノートの表面に触れる。

すると、見事なまでに

人差し指には黒い屑が付着した。

文字を敷き詰めているせいで

表面は凸凹している。

まるで涙が滴った後のようで、

この滲むような無駄な努力に

どう向き合えばいいのかすら

わからなくなりそうだった。


寧々「…。」


そう言えば手紙ってあったような。

手紙って何のことだろうと思い

適当に引き出しを開けてみる。

見当たらなくて本棚の下の方にあった

引き出しに手を伸ばす。


寧々「あ…!」


すると、大量の手紙が

丁寧に仕舞い込まれているのが見えた。

水色というか、白に近いというか、

封筒がいくつもあり、

その中には青色や水色っぽい

便箋が入っていた。




『吉永さま


昨日もあっとうのに元気ですかは

くすぐったすぎるけんなしで。

冬はすかん、冷えたら何にもやる気が起きん。

だからといって夏も嫌やけど。

結局花粉もそこそこな秋が

1番過ごしやすくていい。


結構イメージ通りって言われること多いけど

明太子は外せんね。

レストランに行っても

めんたいパスタばっかり食べよる。

そのせいでこの前姉から

別のものは食べんとって聞かれた。

そんな姉もジェノベーゼっていう

バジルのパスタばっかり食べとるんにな。

とにもかくにも、福岡から来ただけあって

いちごとかラーメンとか、

福岡県産って見るとちょっと嬉しい。


失敗談で言うと、この前シャーペンを

逆さにして芯を出そうとしたくらい。

大きい失敗も沢山あったはずやのに

いざとなると全然浮かばん。


あと、今日は助けてくれてありがと。


締め方が思いつかんけん適当で。

おやすみ。


篠田澪』




『吉永へ


続け様にごめん。

本当に消えてしまうかもしれん。

さっき姉の肩を叩こうとしたら

一瞬すり抜けたような気がしたんよ。

怖くてもう1回はしてなくて

確認しとらんのやけど、

もし、ほんとに、本当やったらどうしよう。

もう誰にも声が届かん。

長くないんかも、消えるんかな。


文字にしとったら少し落ち着いてきた。

1時間くらい空けたかも。

この前いっとった吉永の推測、

もしかしたらあっとうかもしれん。

薬みたいな、使うほど耐性がつくってやつ。

触れられて他人に認知される時間が

だんだんと短くなっとるんよ。

初めは2週間くらい、

触れて次は1週間、5日って。

今度は2日。


怖い』




『吉永へ


勉強、うちも捗ったけん助かった。

黙々とやっとう姿を見てて、

よう眠くならんなって感心しよった。

興味ある科目でも眠くなるけん無理、

受験向いとらんのやと思うわ。


年末年始は帰省する予定。

別に家族仲が悪くて

親と別居してるわけじゃないけんさ。

昔のうちは姉に憧れすぎて、

関東の大学に進学した姉に

ついて行くって言って聞かんかったと。

だけん今神奈川に住んどるって感じ。

書いたはいいけど、

別世界線のうちと仲良かったんなら

知っとる話かもしれんな。


この前も世界史の授業、寝とったもんな。

苦手そうなんわかるわ。

世界史もそこまで好きやないけど

1番は英語が駄目やね。

文法だとか熟語だとか例外だとか

どれだけやっても全然身に付かん。

やり方が違うっちゃろうな。

国語は文章読んでれば答えがあるけん好き。

漢文は好かんけど、

古文は結構読みたくなる問題が多い気する。

巡り巡って教訓にありつくところ

なるほどなって思う。

オチの作りがしっくりくるっちゃん。

吉永は好きな科目あるん?


じゃあおやすみ。


篠田澪』




『吉永へ


宝物ありがと。

持ち運んでる間は確かに

声をかけることもできれば

ぶつかることもないように思う。

この前長く触れたことも

関係しとるかもしれんけど、

最近短期間で透明になりつつあったのを思えば

明らかに認知されてる時間は長い。

効果はありそうやね。


最近やり残したことないかなーとか

時々考えてしまうっちゃん。

もうすぐで有名アニメの2期始まるなとか、

でもやっぱり1番は

受験終わったら何がしたいかなとか。

うちはまだやりたいことも

好きなことも何にもないっちゃけど、

吉永は何か好きなことあったりすると?

ほんと、どうでもいいようなことを

考えとう時間が長くなった。

おかげで勉強に身が入らん。

だけんまた勉強会しよ。


なあ。

この前コンビニで

美味しいパン見つけたんよ。

塩バターパンとメロンパンを

合体させたようなやつ。

買ってみて。


おやすみ。


篠田澪』




『吉永へ


今日は一緒に駄弁ってくれて助かった。

うろの話、ためになった。

うちも何か見つけてみたいわ。


メロンパン好評で良かった。

今度は吉永のおすすめも教えて。


ごめん、今日は眠いけん短めに。

おやすみ。


篠田澪』




『吉永へ


あんたがぐっすり眠っとう時に書いてます。

このまま起きんかったらいいけど。

人の寝息が近くで聞こえるって

ちょっとくすぐったいもんやな。


まず、今日はありがとう。

帰省以外での旅行自体久しぶりで、

しかも友達と行くことなんてなかったから

新鮮やったし楽しかった。

美術館のステンドグラスが

今でも頭から離れん。

昔の将来の夢の話なんやけど

ガラス屋さんになりたいって

言っとった時期があったんよ。

それを思い出したわ。

あれは大切な思い出やね。


吉永は自分が

何になりたかったかって覚えとう?


小さい頃は何者にもなれる気いしたのに、

高校生になってから

現実見んといかんくなってきて

自分が何になりたいかよりも

何になるべきかを見るように

なってしまったなって今思った。

親の考えや周りの考え、

世間体に引っ張られてさ。

医者だの公務員だの、

安定すればええかって。

今の時代生きるのも

しんどくなってきたって言うからなーって。

それって何が楽しいんやろうかって

たまに思ってしまうんよ。

世の中の人を小馬鹿にしてるんじゃなくて、

あくまでうちが未来に希望を

見出せんって話な。

大人になるってそう言うもんなんかな。


今日色々見て、色々思い出して、

透明になりたかった、

なりたいと思ってしまった理由が

もっとはっきりした気がする。

やっぱり願ったり叶ったりやったんかもな。


夜やけん暗いことばっか

考えてしまっていかんね。

せっかくの楽しい旅行なんやし、

この時くらいは頭すっからかんにせなな。

長々と書いてしまったけど

伝えたいのはひとつ。


一緒にここまできてくれてありがとう。


おやすみ。


篠田澪』




『吉永へ


この前の旅行で、最後に無理やり

思い出の場所に行きたいって

わがままを言ったのに、

嫌な顔ひとつせず

ついてきてくれてありがとう。

あそこを見に行けて悔い無いわ。


今日吉永が自分を傷つけてまで

うちを守ろうとしてくれたこと、嬉しかった。

気持ちは受け取る。

けど、うちやってあんたを

傷つけることは本望じゃ無い。

面と向かっても言ったけど、

あんたを結果的に傷つけさせた

自分のことが嫌いになると思う。

やからうちのこと思ってくれとるんなら

自分を犠牲にすんのはやめて。

これからも。


他に方法がないなら

吉永からもらった宝物1度返すわ。

1、2日持ってもらって、

またうちに戻して欲しい。

一旦それで様子見ようや。

ずっと一緒におるんも苦やろうしな。


またこの現象の話になる。

最近この話ばかりで

ほんま飽きるよな、ごめん。


いつかこの出来事で

あんたが頭を悩ます日が

終わるといいんやけど。


名前の件、好きにしい。

うちはどっちでもよか。


話は全然変わるけど

吉永は今何になりたい?

将来の夢ってあったりする?


おやすみ。


篠田澪』




『吉永へ


ここのところあんたの学校生活を

壊してしまうようなことばかり

しよって心が痛む。

でもここは謝罪ばかりもあれなので

感謝を伝えます。

ありがとう。


宝物また渡してくれて助かった。

おかげでもう少し人間らしい生活ができる。


吉永は授業サボらんと

ちゃんと元の生活にしいね。


おやすみ。


篠田澪』




『吉永へ


短くて長いつきあいやったけど

今までありがとう。

でもな、もうそろそろ無理やと思う。


四六時中あんたとおらんと

人には見えんくなってしまった。

吉永から離れて1日もすれば

人にすら触れん時が出るようになった。


実はな、最後渡してくれたビー玉。

あれ、この2日間くらい

持っとらんかったんよ。

何でって思うよな。

うちもわからん。

諦めとったんかもしれん。


だけどとっといて良かった。

これを持って遊びにいってくるわ。

これで文通はおしまい。

なんだかんだ言って楽しかった。


ありがとう、おやすみ。


篠田澪』




『吉永へ


一応宛名は書いたけど、

今日から届きもしない手紙に

なると思うけん、

日記みたいに書こうと思う。


知らん図書館や

近くにあったのに行ったことなかった

公民館とかでのんびり過ごした。

先週も休憩したばっかなんにね。

姉はうちのことが見えてないみたい。

同時に、うちのことを忘れとうみたい。

朝食も夕食も自分の分しか作らんかった。


夜中に散歩だってした。

警官の前にずっとおっても

工事現場を覗き見しても何も言われん。

犯罪にも遭わんことはいいことやね。


じゃあもし渡せた時ように。


おやすみ。


2023/12/9

篠田澪』




『吉永寧々へ


寧々ってこの漢字であっとったっけ。

今日はまた箱根に来てしまった。

無銭乗車でもばれんって

逆に怖なってきたわ。


旅館見にいったり

大涌谷や美術館見にいったり。

それと滝も見に行こうと思ったんやけど

また迷子になったらと思うと

怖くてやめてしまった。

どれもこれも1人やと

スタンプラリーみたいに

ただ回るだけで終わる。

あんたと行ったけん

楽しかったんやね。


じゃあおやすみ。


2023/12/10

篠田澪』




『吉永寧々へ


思い出の場所にきたよ。

ここ、うちだけの思い出の場所じゃないんよ。

あ、でも覚えてないってことは

そんな思い出深くもないんかな。


願って良いんかな。

またここで会えますようにって。


そんなことしたら

またあんたの生活を崩してしまうな。

やっぱり今のはなしで。

あんたはちゃんと学校に行ってな。


でももし時間があったら

遊びに来てくれたらな…なんて。

うちって最後まで矛盾ばっかよな。

だけんかな、真っ直ぐなあんたが

かっこよく見えとったよ。

羨ましかった。


おやすみ。


2023/12/11

篠田澪』




『吉永寧々へ


あんたの、寧々の明日が

素敵な日でありますように。


おやすみ。


篠田澪』




寧々「…。」


言葉なく手紙を閉じる。

そして、最後の2通。

白く花のディティールの入った便箋で、

これまでのどの手紙とも

違うことがすぐにわかった。




『篠田さんへ


何度も言います。

私は篠田さんを助けられれば

それで良いんです。

自分の生活なんて

知ったとことじゃありません。

ですからあきらめないで。

絶対方法はありますから。

今日の奴村さんとの出来事で

また何か変化があるかもしれません。

その時はすぐに教えてください。

一緒に考えたいです。


明日も素敵な日でありますように。


吉永寧々』




そして、あと1通。




『澪へ


好きです』




もしかしたらこれは

渡せなかった手紙なのかもしれない。

じゃなかったら自分の手紙が

ここにあるなんて訳がわからないから。


寧々「……あははっ…。」


何と形容すればいいか、

どれが本当でどれが嘘かわからなくなっていた。

だって私からすれば

友達は学校の人だけで

お母さんと2人で暮らしてるけど

何も不便はなくって。

それが私の環境なのに。


寧々「…あーあ…これ、伝え損ねたんだろうな。」


最後の手紙を見て思う。

嶋原さんと話してわかった

篠田澪という人間の存在の消去。

そして忘却。

手元にあるお話は、

どうやらおまじないだけ。


寧々「何だしたっけ。」


そう言えば昨日メモしてなかったっけ。

寝起きで嶋原さんの話を聞いたら

すぐに忘れるだろうからと、

スマホに書いた気がする。


篠田澪はもともと存在していて、

それも私と関係が深かった。

が、日に日に透明になっていき、

多分ある時を境に透明になっては

記憶からも消された。

今や篠田澪はいないし存在していない。

元からいなかったかのように。

そして。



『2人の宝物を持って

思い出の場所に行くと縁を繋ぐ』



そのひと言だけが書かれた

メモを発見した。


この出来事全てが夢で、

実は現実は別のところに

あるんじゃないかとすら思った。

けれど。


寧々「…やってみる価値はあるんだよね。」


きっと。

そう言い聞かせては

宝物があると言った引き出しを開けては

すぐに疑問符が浮かんだ。

引き出しの中にいろいろと入っているせいで

どうにも宝物がわからない。

最悪全て持っていけばいいのだろうけど、

他のものを持ってると

おまじないは成立しないなんてことが

あるかもしれない。


それに、思い出の場所って何?

手紙の中では旅行した話もあったけど、

それが一概に思い出の場所とは

言えないだろうし。


寧々「…?」


そのままスマホでTwitterを開く。

そう言えば、何故からネットの人たちは

篠田澪を知っているらしい。

もしかしたらクラスメイトか

同じ学校の人だったりして。

そんなことを思いながら

悴みつつある手を動かす。



『誰か2人の宝物と思い出の場所について知っている人はいませんか』



寧々「…。」


そのまま布団にもたれては

何となく大の字で広がって

スマホすら手放した。


寧々「…透明…かぁ。」


透明になっても生きているのかな。

そのまま餓死しちゃうのかな。

でも、小さい頃考えたっけ。

透明なれたら何をする、とか。

ほら、人気のアニメで

透明になれる秘密道具とかあったし、

子供内の会話で出た気がする。


透明ね…。


寧々「…かくれんぼじゃ負けっこなし…か。」


子供みたい。

そんな独り言が宙を漂った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る