第33話 茶髪の剣豪
《33話》
【魔界─邪竜の都テネタリウス】
──古くより邪竜の寵愛を受け、邪竜のその圧倒的な強さ、権威によって周辺都市を併合…或いは睨みを効かせ、発展してきた…
「邪竜の都テネタリウス」
という謳い文句は表向きのモノであり、この都市に住む悪魔達は皆、邪竜ファヴニアルの気まぐれなる暴走によって何度も被害を被ってきた者ばかりである……
「触らぬ邪神龍に祟り無し」
ともはや、たかが邪竜という枠を超越して畏怖されている。ある意味祀られていると言って相違ない──
現に、ファヴニアルが暴走を起こしたとして、単体でそれを制圧できる悪魔など魔界にはそうそう居ない……いや、存在するか自体もハッキリ言って怪しい。
魔界最強クラスの討伐隊の悪魔達が束になってかかっても封印するのが手一杯というのが現状である──
しかし、この凶悪な邪竜を鎮め、封印することが出来る封印に特化した封印師の悪魔達がこの都市には存在する…
彼らは討伐隊に同行し、封印をする際に指揮を執りつつ封印を敢行するのが彼らの役職であり、使命──
そのため、この都市の悪魔達は幼少期から英才教育として封印術を叩き込まれるのだ。
──いわゆるエリート家系という訳ね。
そうやって封印術を身に付けた封印師らは単に邪竜を鎮めるだけでなく、封印という事象であれば、大抵の相手を封殺(封印)できる。
常に邪竜の脅威と相対しているのだ、他の魔物などさほど脅威ではないと言える。
この都市は邪竜討伐の際、一定の封印師という地位を得ているだけでなく、討伐隊の戦利品の分け前や、簡易的な封印グッズなどの売り上げで潤っている。
(ま、この都市からすれば暴れたら面倒だけど邪竜様様って訳ね……)
それが邪竜と共に生きる邪竜の都テネタリウスである。
★
──この邪竜の都テネタリウスにて、邪竜ファヴニアルが討伐され、大混乱に陥る事になる数刻程前
魔界随一の剣豪がこの都市に到着していた──
「あくまで可能性があるというだけではあるけど…」
そう言いながらも、この中性的な見た目をしている茶髪の
第六感というものであろうか……
この茶髪の少女…"レイ"は、ディガルや討伐隊の悪魔達が邪竜討伐に向かった後に邪竜の"棲家である洞窟"にではなく、その直近にあるこの街(テネタリウス)に来ていた。
彼女の推測では
"仮に邪竜ファヴニアルが討伐されたならばきっとこの街に大混乱が引き起こされるのでは……"
と予測していたのだ…
邪竜ファヴニアルが討伐された時、その棲家を覆い隠していた結界はどうなるか…そして、単に討伐されたで終わりになるのか……
ディガルと討伐に行くのが熾天使だとすれば、いくら世界最強クラスの竜族の一柱だとして十中八九こうなると彼女は予想していた。
"邪竜ファヴニアルは倒される"と──
熾天使の恐ろしさ…圧倒的な力は、並外れたセンスによって過去類を見ない速度で討伐ライセンス超級まで登り詰めた彼女であっても…嫌というほど理解している。
(なぜなら私は熾天使の加護を受けているから……その加護が無ければ非力な私はきっと超級にすらなれていなかっただろう…)
そもそも街の住民の大半が邪竜を信仰、崇拝、畏怖しているこの街でその対象である
間違いなく混乱は避けられない状態になるだろう───
───そんな状態に更に街を蝕む瘴気となれば……
(瘴気というのは単なる毒というものでもない、触れれば身体は蝕まれるのは勿論の事……周りの良からぬ存在に力を与えてしまう……)
普段であれば単なる雑魚魔物であっても、巨大かつ凶暴化するのも困りものだ。
所謂バフ効果が凄まじく凶悪なのだ……
そうなればいくら超級だと言っても、普段の雑魚モンスターに出来るような…無双は出来なくなる──
「やめよう……私の嫌な予感は当たりやすいんだから…」
彼女は、そう言いつつも警戒はし、この街に1日滞在を決めた。
本来であれば単なる観光のつもりだったのだ……
(実際にこの街は発展してるし、食べ物も美味しいと聞くからね…ちょっとゆっくり羽を伸ばそうかな…)
ファヴニアル討伐が成功しようがしまいがディガルの状況が気にならないと言えば嘘になる。
熾天使が付いているとあれば、死ぬようなことはまずないだろうし、仮に成長していた様子なら労うつもりだった。
おまけに彼についているという熾天使の姿を拝みたいという気持ちもある。
そんな事を考えながら彼女は観光と称し滞在していたのである───
★
【魔界─邪竜の都テネタリウス】
──私の嫌な予感は的中した。
邪竜ファヴニアルの気配を感じなくなったと同時、ファヴニアルの棲家である洞窟の結界が維持出来なくなっている様だ───
(やっぱ当たっちゃうよね…事実、私のこういった予感はまず外れたこと無いし…もうこうなったら占い師にでもジョブチェンジしても良いくらいの的中率…)
なんて思っている間にも、邪竜の棲家を覆い隠していた結界を維持する力はドンドン弱まっている。
それに加え、想定外なのはこの瘴気量だ……いくらなんでもコレは見たこともない量と質である。
「あの結界は基本ファヴニアルが維持の根幹を担ってたから…街の封印師ですら不用意には触れなかったって聴くし……仕方ないか……」
だがあいにく、気配に敏感な私を含む数名の悪魔以外はまだこの危機的状況に気付いていない様子である。
「さてどうしたものか…住民の避難が最優先で、なんとか私の手で食い止めたいけど……あまりにも打つ手が」
邪竜の気配すら急激に感じる事が出来なくなったと同時に瘴気が雪崩のように分散され始めている……
(あー…コレは確実に討伐されちゃったかな…死んだと断定はできないけど)
「……はぁ、街の悪魔達が変な気を起こさなきゃいいんだけど…」
実際に邪竜が討伐されたとなれば、自分達の食い
ただ、その前にこの瘴気量は本当に笑えない……昼であるというのに真夜中か疑うほどに空が赤黒い色へと変わり始めている。
(とにかく…この気配の変化に私はいち早く気づいているんだ、街の悪魔達には少しでも遠くに避難を呼びかけるしか……)
でも……
「こんなの…どこへ逃げれば良いんだって話だよね…」
実際、この街には昼だというのに完全に光が遮断されてしまい…ロクに視界も確保されていない
まずこの街への被害というのは避けようがない…
(でも物は試しだ…やるしかない!)
──この状況で何も出来ないという訳ではない…私の剣には熾天使の光を卸し、宿らせることが出来る…と、ならばやる事は決まっている。
(これであれば多少の瘴気は浄化できるし、明かりで逃げ場の目印になれる……あわよくば共闘出来る仲間を呼ぶ事も……!)
───私の剣は幼い頃心優しき熾天使から渡されたものだ…。
それは単なる気まぐれだったのかもしれない。
だけど…この魔剣は私の強く有りたいと願う時、誰かを助けたいと想う時に何度も力を貸してくれた───
「今回だって、私の手でこの街を…一人でも多くの同士の生命を護って見せる!」
《イノセンスセレスティアルレイ!》
───魔剣に熾天使の光を纏わせ振りかざすことで天界から清浄な光を射すこの技は、環境の効果を無効化するには最適な技だ。
──しかし、いつもであれば差し込むはずの強烈な光が一切差してこない───
「なんで…そっか、分厚すぎるんだ……瘴気が、私の光を喰らって………る」
まるで天空に大きな瘴気の障壁が張っていて光が完全に蝕まれ、塗りつぶされている……
(こんな規模が大きくて、おまけに熾天使の光を完全に制圧する瘴気なんて聞いたことがない……)
この技は一度使うと、意外と消耗が大きい為連発は出来ない…でも、突破口はこれしかない
私がやるしかない!!
《イノセンスセレスティアルレイ!!》
私は先程よりも更に強く念じる……"熾天使の光よ活路を示せ"と!
赤黒い雲の隙間から一片の光が強く自分の周りに差し込んで来て、瘴気の膜を浄化し始める。
──届いた!熾天使の光は確かに届いてる、天界からの光の気配を強く感じる!
(けど、やはりあまりにも持続時間が短すぎる……!)
一瞬にして再び辺りは瘴気の闇に包まれる。
───息が苦しい…私は自分の周囲に薄っすらと外からの効果を軽減する結界を張っているのに瘴気はそれをも貫通してきているようだ───
それすらしていない一般の悪魔達にはコレは長く保たないだろう。
(……やはり瘴気の外へ避難するか巨大な浄化魔法がなければ)
(私はこういう時やっぱり非力だ……)
どうやったってこんな状況もう諦めるしかないのでは……という気持ちがよぎってしまう。
超級に最速でなれたから…?
熾天使の加護を受けているから…?
"そんな事が今なんの役に立つ、この状況をなんとかできなきゃ意味ないじゃん" …と
私は悔しさと情けなさで思わず"クソッ……"と呟いてしまう…
「なぁ、そこのアンタ…もしかしてあの伝説の茶髪の剣豪っスか?」
────唐突に後ろから声をかけられる。私は集中していた事もあり驚きで変な反応をしてしまう。
「ひゃう!…へ…?はい、巷では一応そんな呼び方…されてますけど…」
「やっぱり!そうだと思ったんスよ、見るからに凄まじい気配だし、熾天使の加護の光纏ってる悪魔なんて中々見ないスから!」
目の前にいる少しヤンチャそうな雰囲気を出している青年……彼は私の姿を見て何故か高揚している様子である……
「え…えっと貴方は?」
「あ、申し遅れました。自分ヒューガといいます、討伐隊の一番槍を務めてるっス」
「は、はぁ……?で、私に何か用ですか?あまり話をしてる余裕は無いのですが…」
「俺が言いたいのはその事についてです。すでに動いて下さってるようなので改めて言うつもりも無いですが…」
「その事…というと、この街に瘴気が充満し始めて混乱状態になり始めているという事ですよね」
「はい、その認識であってます。邪竜ファヴニアルは熾天使と特異点によって討伐されました。」
「やっぱり……」
「でも、ファヴニアルの本体はまだ生きてます……そして本体の方は敵対もしていない、その本体が力を取り戻せば、この瘴気もどうにかなります」
「ファヴニアルの本体が居たのですか?」
「暴れていたのは力を付けすぎた外郭だけだったようです」
「なるほど……まだ微量にファヴニアルの気配を感じるのはそういう事ね」
「はい…だから、それまで茶髪の剣豪さんには俺達討伐隊と凶暴化した魔物に対峙して欲しいんです。住民の避難については討伐隊の救護班でも出来ますから……」
ヒューガと呼ばれるこの討伐隊の悪魔は私に向けて頷くと、改まったように頭を下げ
「この都市は封印術についての重要なファクターだ、今回の事象は俺達討伐隊の力不足によって招いたと言って相違ない……」
「今更上の圧力で無理矢理に討伐隊を除籍されたアンタに頼むのは違う事くらい分かってる……」
そうして彼はひと呼吸つくと
「過去に貴方が何があったか俺は詳しくは知りません……でも俺はアンタの力を俺は借りたい。」
と、そう言ってくる。私は彼の瞳の中に信念が宿っているのには気付いている。
(だからこそ……彼が私に謝罪をする必要などない)
「私に助力を求めているのは分かります……だけど、あくまで先鋒であるだけの貴方が上層部の代わりに謝る必要なんて無いですよね?」
「仰る通りっス。でも、貴方は腐った上層部からの謝罪よりも、現場でのSOSについては助力してくれそうだなって」
「ええ…確かにそれは言えてますね…私は悪魔の上層部にはハッキリ言って嫌悪感すら感じます。」
「それについては割と分かるっス……ならこうしません?」
「何か私と取引する…と?」
「えぇ、貴方は頼まれたのではなく自分の意志で、この都市を救うと決めた…と、その上でお互い協力する事がメリットだと…」
なるほど…この悪魔は見た目の印象以上に頭もキレるし誠実なようだ…。
「そうですね……ひとまずは、討伐隊じゃなく貴方のその誠意に免じて私は協力します」
「感謝するっス」
「後一つ……貴方は邪竜ファヴニアルの討伐される姿を見たんですか?」
「あ、それは勿論…」
「ならば特異点に付いている熾天使はどんな熾天使か教えてくれませんか?」
「どんな……というと、女で…薄っすらとピンクと水色っぽい髪で…めっちゃアンタみたいに顔整ってて…後胸でかいっス!エロいっス!」
「そんな事聞いてません!!」
目の前のこのヒューガという悪魔は何故か照れ半分という雰囲気で頭を掻く
「ハハ、冗談っスよ〜、えっとフィリスって名前だった気がしますよ?」
「フィリス………フィリスね……」
「心当たりあるんスか?」
「えぇ…一応ね…なら、なんとかなるかもしれない…」
───全く、誠実だと感じた自分に呆れる……さっきのは撤回ね。
正直、この状況に対してまだどうにかなるとは全然言えないけど……
活路は少し見出す事ができるかもしれない───そう感じさせてくれたこのヒューガという悪魔には感謝の念すら湧いている。
さぁ…私も、この状況をなんとかする為動き出そう───
《33話完》
悪魔は禁断の恋をする/"前世から狙われていた俺は異世界で彼女と生きる" 暇人大学生ソニア @S_Ryosuke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。悪魔は禁断の恋をする/"前世から狙われていた俺は異世界で彼女と生きる"の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます