第32話 新たな脅威を前に…
《第32話》
【元・邪竜ファヴニアルの洞窟】
討伐隊の悪魔達が先に洞窟から撤退し、彼らの気配が洞窟から完全に消えてからまだ
ファヴニアルを撃破した事によってこれまで維持されていた結界が崩れ、その瘴気が溢れ出すことになった───
ファヴニア
「我の瘴気は他のどの種族に比べても最高級だからの…仕方あるまい♪」
などと言っているが…その瘴気を浴びた魔物は狂暴化し、理性を失ってしまう場合もあるというから笑えない。
「ファヴニアルとの決戦が終わったばかりなんだ、もうちょい休ませて欲しいとこだよな…」
俺はそんな恨み節を口にするが、内心焦りは感じている。
──ものの、俺の横でニコニコとしているフィリスを見ていると何だかんだ大丈夫ではという楽観的な考えも浮かんでくるんだよな。
(これを鎮静化させるには…魔物は基本的には討伐するしかないが…仮に人が瘴気にあてられていたなら…フィリスの力でなんとかなるかもしれないんだよな…実際フィリスの浄化の力は凄まじいし)
そんな事を考えていれば、フィリスが話しかけてくる。
「ディガル君にはさ、この連戦で加護の力の使い方の基礎を更に身に付けてもらいたいんだけど…せっかくだし、最初はそこまで口出しせず静観するよ」
「え…フィリス?それっていわゆる放任主義ってヤツ?」
「ハハハ、案外近いかも…?最初は何事もやっぱ自分でやってみないと身に付かないし…一人で戦えないといざって時困るでしょ?あ、でも理由はそれとはまた違うんだけどね」
「まぁ…一理ある…かな」
(確かにフィリスが居なければ何も出来ない金魚のフンみたいな特異点は情けない事この上ない…)
そう考えれば自然と向上心というのは湧いてくるものだ…俺は改めて自分の力で強くなっていきたいと決意した。
「ファヴニアル戦では結局ほぼフィリス頼りだったからなぁ…ここらで俺も強くならないとフィリスに呆れられそうだしな…」
そう言って苦笑いをするとフィリスはすかさず
「ん〜、呆れることは別にないかなぁ?ディガル君が強くなる事は私が保証するし、最初のうちは誰だってそうでしょ?」
「あー、でも最初から才能ある人とかいそうじゃん?」
「まぁ才能あるヤツも居るっちゃ居るけど、大抵そういうのも何かしら幼少期にえげつない教育されてたりするから…」
フィリスは呆れたような顔で二ヘッと笑う。
(心当たりでもあったのだろうか…)
「そんなものか…」
「ん…でも大丈夫、ホントにピンチな時は助けるし…間違ってたら後で訂正するからね…そこのねぼすけ邪竜も何かアドバイスするでしょ」
フィリスはミニ竜姿のファヴニアに、それ位は役に立ちなさいよと言わんばかりの言い方である…
(相変わらずフィリスはファヴニアに手厳しいな(苦笑))
ファヴニアは面倒くさいと言いたげに
「静観しておれば我に厄介事を押し付けるな熾天使!そもそも我は細々とした天使や悪魔どもの戦い方はせぬ、対象外だ」
「ふーん…?その''細々とした"戦い方をしてる私にコテンパンにされたんだし…ファヴニア"ちゃん"もこういう小回りがきいた立ち回り覚えた方が良いんじゃない?」
その言葉を受けファヴニアは明らかに「……!」と言う顔で不満そうに──
「そこまで我を侮辱するか…ならば我がその特異点を
(あ…すごくチョロいよ、ファヴニアちゃん…(汗))
「ニャハハ!相変わらず竜種は単純だね〜、扱いやすくて助かるよ…んじゃ、私は一旦洞窟の周辺にこの瘴気がどれほど影響を与えてるか確認してくるよ、嫌な予感もしてるんだよね実は…それがホントの理由」
と言って、フィリスはスッと身を翻すと俺に近付き…耳元で
「ディガル君、何かあったら私の姿を想像して呼んでくれたら君の中の私の加護が反応するからね、ちゃんと助けに行くから…」
「ッ……!分かったから耳元で囁かないでフィリス…!」
「ニャハハ♪」
こうやって耳元で美少女に助けてあげると甘く囁かれて嬉しくない男は…まぁ居ないだろうな…
(フィリスが身を翻す時に彼女の天使の翼がキラキラと光るのでつい視線を引き付けられるってのもある…)
「あ、一応聞いておくんだが…フィリスとの契約は解除してないよな…?」
一応不安に感じて俺は聞いてみる…
「大丈夫、勿論継続してるよ?私からその契約を破棄する事は基本は無いし、そもそもこの契約…ディガル君が私より強くなるまでって約束でしょ?」
「助かる…というより、そんな時がホントに来る気しないんだが…」
「ま、それならディガル君は私からは"一生"逃げれないって事になるね♪」
(んん……やっぱ言い方がズルい…!)
フィリスからサラッと逃げれないと言われるとむしろ何か身体が熱くなる感覚がある。
フィリスの加護の力の反応かもしれない
だが俺はフィリスにどうしても言っておかないといけない事がある。
…それは、俺の記憶が少し蘇ったあのタイミングの事だ。
(俺の前世はフィリスと死闘を繰り広げ、そしてフィリスに後を託して死んだみたいなんだよな…)
「それでさフィリス、この戦いが終わったらフィリスと俺の過去に何があったのか聞きたい、さっきファヴニアルとの決戦中に見た記憶のこともあるし…」
「…そっか、ちょっと記憶思い出しちゃった訳か〜……ディガル君は…知りたい?」
一瞬だけ、フィリスの表情がくもった気がしたのを俺は見逃さない。
やはり彼女にとってその記憶というのはあまり思い出したくない事だったのだろうか…
「うん…きっと…俺がこの先フィリスと生きていく為に必要な事だと思うから…」
そう言って俺は更に続ける
「もちろん無理にとは言わないし、過去を知ったからと言って俺がフィリスに救われたのは事実で、これから先もフィリスとずっと契約を結んで一緒に居たいってのは変わる訳では無いから…」
「まったく……ディガル君はホントズルいなぁ、でもいつかは教えなきゃ駄目だなって思ってたから…」
一瞬フィリスの瞳が潤んでいたように感じる───が、彼女はそれを感じさせない程にすぐに表情を変え、はにかむような顔で…
「でも…まずはこの戦いで成長してもらわないとね♪君は私の"救世主"でたった一人の"契約者"なんだから…」
「改めてフィリスの口からそれ聴くと気恥ずかしさがすごい…けど、単にこの瘴気で狂暴化した魔物を倒していくだけで俺は成長出来るのかな…?」
俺は胸の内を明かしつつ、不安な要素についてはハッキリと正直に伝える。
フィリスはそれを聞いて、「あ〜…」と納得しながら
"確かにただ闇雲に倒すだけでは成長感じられないかもね〜…それに、途中からは惰性である程度戦えるようになっちゃうかもだし…"
っと呟きながら考える素振りを見せている。
「でも、闇雲に我武者羅にやってみるのも大切だよ…ま、どちらにせよこの状況は鎮静化しとかないと悪魔にも天使にもデメリットでしかないからね…あ、さっきみたいに私"の"剣、預けておくね?」
「やっぱ場数踏むのが必要だよな~…うん、フィリスの剣があればすごく心強いよ」
「フン…我の力が戻れば余裕じゃ…ビビる程でもあるまい」
そんな中、急に拗ねたようにファヴニアが口を開くが…
「ファヴニアちゃんが自分の瘴気をしっかり管理しとかないからでしょ?それに、私達と一緒に来るならこの場所の瘴気は貴方が吸収するか、あるいは浄化しなきゃでしょ?」
「むぅ…我のような強者が弱者のごとくリスク管理などする訳なかろう!」
「結構リスク管理って大事だと思うけどな…何が起きるかなんて分からないしさ」
「ニャハハ、ディガル君もっとファヴニアちゃんに言ってあげたら?あんまり自分が負けたって自覚無さそうだし♪」
「五月蝿い!いつでも背後から斬りかかってやるからな熾天使…!」
「いいよ?それくらいじゃなきゃ私も危機感が鈍っちゃうし…ディガル君が成長した時に私より先にファヴニアちゃん倒せてないと、私に張り合えるとは言えないからね〜」
「相変わらずの危機感の欠如……」
「それについては、俺もちょっと同感だよ…フィリスって結構楽観的だよね」
「んー…なんでかな、正直にいうと私はさ何度も何度も死ぬような経験してるし感覚が麻痺しちゃってるのかもね…?」
「熾天使など苦労しそうな印象しかないの…何か"役割"に縛られる生き方は我の性分には合わぬ」
「何度も死ぬような経験って…俺の過去と関係ある…よな?」
「んー…無いとは言わないかな…私が未熟だったとはいえ、私を困らせた相手の中ではダントツだったよ君は」
「それはなんかごめん、記憶はないけど」
「気にしなくていいよ?私は今の状況に満足してるし、自分の選択に後悔はしないタチだから♪」
フィリスは困ったようにしながらも改めて笑う。
「じゃ、そろそろ私は行くけど後一つ言っておくね…私はディガル君の中にある加護の力や剣に宿してある力の流れでだいたいどんな動きをしてるかすぐ分かるんだよね〜」
サボってたらお見通しだし、後でお仕置きだから…とフィリスは笑う。
(お仕置き……なんかフィリスから言われるとエッチな響きだな…)
「ディガル君今エッチなこと考えたでしょ〜」
「ギクッ…」
「ほらね、お見通しだよ?」
「参りました…」
「フフン♪でも、ディガル君は私からお仕置きされたそうな雰囲気あるよね〜」
「え……?」
フィリスは「ほらね?そこまで分かっちゃうのすごいでしょ♪」というようなドヤ顔をしながら、近づいてくる。
そして艶めかしいような笑みをしながら…
「ね…逆に、頑張ったら"ご褒美"あげよっか…?」
フィリスは俺の腕を優しく掴めば、柔らかなその指先で俺の腕をッッ〜となぞる様に触り、そして甘く囁きながら
(相変わらず凄まじい破壊力だ……マジで身体の火照りが…!)
明らかに俺の心臓は鼓動を速めていて…
「ハハハ…ディガル君…ドキドキしてる?実は私も…」
「ッ……フィリス…!」
「緊急事態とかぬかしておきながら我がいる前で、イチャイチャするな変態熾天使!」
そう言いながらファヴニアは反対の俺の腕を掴んで引っ張り引き剥がす
「もう!ファヴニアちゃん邪魔しないでよ!」
「フン!我は特異点が熾天使にストレートに絆されるのを邪魔する為に居るからの…そのうち
「なんか不穏だな……」
「安心するが良い、我の下僕として飼ってやろう」
「大丈夫だよディガル君、こんな雑魚邪竜に渡すほど私は甘くないから」
「むぅ…いつかホントぎゃふんと言わせてやるぞ熾天使…」
ファヴニアは不満げに俺の腕を離すと
「ほらさっさと外の様子確認してくれば良かろう、特異点を我に任せるのであろう?帰ってきたときには我に食われておるかもな…?」
「ファヴニアちゃんがそんなことしないし、出来ないのは私理解してるからね〜」
「ぐぬぬ……」
それにしても…全く…フィリスには全て見透かされてる気がする…いや、もはやファヴニアもかもしれないが、ま…彼女の力が自分の半分を満たしているのだから、仕方ないと言い訳もしたいものだが…。
「あ、言い忘れてた!ディガル君に預ける私の剣、少し"特殊"な細工をしたから…使いこなせるよう頑張って…♪」
「えっ、今初めて聞いた情報なんだけど…!?」
「うん、私も初めて言ったからね…ハハハ♪でも使いこなせるようになればきっとディガル君は気に入るだろうし、君の助けにもなると思うんだよね〜」
「ん…分かった、ひとまずやるだけやってみるし…後でまた評価してくれ」
「ん、その意気やヨシ♪んじゃ、こっちは任せたよディガル君とファヴニアちゃん」
──そう言って、フィリスは光に紛れてシュンッと姿を消す。
(相変わらずフィリスはいちいち移動する時のエフェクト?光を纏って消えるのが男心をくすぐるんだよな…カッコよすぎる…)
「忙しない熾天使め…四大龍の一柱である我にこの特異点のお守りをさせるなどと…贅沢なヤツじゃ全く……」
「その四大龍のくだり前も言ってたよね…その称号気に入ってる?ファヴニア」
「五月蝿い、我を茶化すには早いぞ特異点」
「ごめんごめん…つい」
「ったく…熾天使の楽観さが移りおったか?」
俺の横でファヴニアは何かブツクサと文句を並べているが、まぁ…そのうち俺と戦ってくれるだろう──
んで…だ。フィリスが俺に新たな剣と言って渡してくれた剣だが…先程ファヴニアルを撃破した時にフィリスが渡してくれた剣とさほど変わらないように感じる。
剣に纏っているフィリスの加護の光や力は相変わらず凄まじいと感じるが、細工という細工はパッと見では見受けられないように感じる。
『おい特異点、来たぞ。』
「分かってる!」
しかし、そんな事を考えている間もあまりないようだ…。
(ま、戦いながらきっと気づくだろう…)
ウダウダ言っても強くなれる訳では無い。
俺はとにかく今は必死にやるしかないと思考を切り替える。
それにしても…ファヴニアは危機察知能力が高いんだろうな…俺には言われるまで正直気配も感じなければ、瞳にも敵の姿は見えていなかった。
(フィリスは確か、空間の揺らぎ、淀みで敵の気配が"視えるし読める"と言っていたよな…)
ファヴニアにも何かしらのそう言った力があるのだろうか…
「俺の中にもフィリスの力があるんだ…きっと、集中すれば…何かしら掴めるかも」
俺は自分の右の瞳、熾天使の瞳にフィリスから教わったように自分の力を重点的に流し込んで拡張していくイメージで…
『フィリスの加護……力を貸してくれ……』
俺は自然とそんな事を呟いていた──
(あ、フィリスに頼らないためにこれやってるのに……ま、いっか…神頼みみたいな願掛けってことで)
"良いよ…君と私の未来の為に"
(……え?)
今、耳元でフィリスが囁いたかのようにハッキリと声が聞こえたような気が……
だが、勿論フィリスが横に帰ってきた訳ではない。しかし、俺の熾天使の瞳には先程よりもうまく力が馴染んでいるような気がする。
(フィリスなんだかんだ甘やかしが凄いな……ホント有り難いよ)
────ゴゴゴゴ………
だが、自分の今の状況はゆっくりと自分の変化を受け入れている余裕はない。
大地がまるで動くかのような地響きが鳴り、まるで大地震が遠くから迫ってくる時の感覚といえば近いだろうか…
不穏な気配が辺りに立ち込め、どこからそれが現れるか分からない…。
しかし、俺の熾天使の右目は一瞬自分達の前方の地面の動きを見逃さなかった…。
「ファヴニア、下だ!」
「分かっておるわ!」
ファヴニアには勿論それに気付いていた様子で、俺達は地面を蹴り上げれば一気に飛翔する。
その瞬間、俺達の足元が盛り上がると一気にソイツは姿を表す…
「大ムカデってヤツか…?」
「フン…我の相手をするにはちと矮小過ぎるな…」
「ファヴニアちゃんまだ完全回復してないでしょ」
「完全回復してなくとも我はお前の10倍は強いわ!」
「うわ…改めてそれ聴くと俺弱いなぁ…援護頼むよファヴニア」
「仕方あるまいな…最低限だけフォローしてやる」
「ありがと…ひとまずフィリスから渡された剣の試し斬りにでもしますかねぇ〜……にしてもムカデは気持ち悪いな…」
「我もそれには同感だ」
「あ、珍しく気が合った」
「五月蝿い、集中しろ特異点」
「分かってる!」
そう言って俺達は、地面から現れた正気を大量に纏った大ムカデと対面する─────
《32話完》
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