第31話 邪竜討伐の弊害

《31話》


【"元"邪竜ファヴニアルの洞窟入口付近】


邪竜討伐を終え、俺達は帰還することとなった…ファヴニアも一応仲間になり──


(にしてもなんかドッと疲れが押し寄せて来た気がするなぁ……フィリスに回復はかけてもらったが、この疲れは多分先程の自分の中にあるフィリスの加護の力が原因かも…)


俺の中にあるフィリスの力は彼女から説明されたようにとんでもない出力かつ俺とフィリスの力の相性がやたらと良いらしく、俺の身体が耐えきれないのだ……


そしてその力を使いこなす技量も無い為、活性化すると覚醒状態みたいにはなるがほとんど何も出来ないという情けないおまけ付きだ。


『小さな暖炉に、灼熱の業火をブチ込んで大量の薪を焚べている状況』


みたいな事を例え話にしていたが何度聞いてもこれはあまりに自殺行為だ……。


俺は努力してそれを使いこなせるまでフィリスに強くなれるように修行つけてもらうという話になっている。


(まぁ、俺がそれを使いこなせるようになるのはいつになるのかはわからないが…)


一応フィリスによれば、"すぐ使いこなせる方法や契約があるにはあるが、俺の肉体に凄まじい負荷が掛かって失敗する可能性も割と高い"という事らしい…


("失敗すれば今後の俺の成長や能力に深刻な影響が起きる可能性がある"と言われたんだよな……)


それに加えて


"フィリスが生きている限り死なない"


という邪竜討伐の前に結んだ契約があるとはいえ、失敗すれば死ぬ位の激痛が走るかもという話を聞けば流石に俺もビビらざるを得ない。


ただフィリス曰く


「仮に失敗してもディガル君の魔力が完全に消えさえしなければ、分身を作るように新たな肉体を構築してそっちを本体にしてしまえば多分大丈夫かもね…」


──ということらしい…相変わらずめちゃくちゃである。しかしフィリスは続けて


「でも私の力に頼りきりになればディガル君自身の本来の力はほとんど成長が止まってしまう訳だし…私としてはせっかくの"特異点"なんだから天使と悪魔の両方の力使えた方が良くない?と思うんだけど…どう?」


と言っていた。まあそう言われれば両立できた方が良いよな…と納得した。


「今のディガル君はまず肉体を強化して、素地を作らなきゃいけない訳だけど…元から君は結構筋肉ついてるみたいだし…今はひたすら魔力量と肉体の魔力、加護の力への耐性を上げる事だね」


「その3つか…どうすれば身に付くんだ…?」 


「ん〜…やっぱ地道に魔物討伐かなー、実際戦いを経験すれば肉体はどんどん魔力に馴染むし…加護の力にも耐性がついて使えるようになってくるはずだから…」


結局のとこ地道な鍛錬が必要らしい、やはり悪魔になったから無双できるという訳ではないらしい…


──大丈夫、ちゃんと私が導いてあげるから…♪


と、フィリスはニコッと笑いかけてくる…。


(ん"〜…可愛いが過ぎる……ズルい!)


とにかく俺としては、一目惚れしたフィリスと少しでも長く一緒に居たい訳だし、マンツーマンで修行つけてもらえるならこれ以上良い選択肢はないだろう。


それに、俺は努力するのは嫌いじゃない…


なんだかんだ毎日筋トレを欠かさない身としては、フィリスとの修行で少しずつでも成長出来る実感があるなら尚更助かる。


ちなみにではあるが、くだんの俺の中のフィリスの加護の力の発動条件についてはまだまだ謎が多い…


(この間のフィリスの極刑裁判の時には、俺に勇気を与えるというのがトリガーになっていた…


邪竜ファヴニアル戦では、邪竜の瘴気にあてられて心が折れかかった時には俺の心を支えるというのが目的になっていたはずだ…


しかしながら…ファヴニアを撃退?した加護の力の活性化については完全にフィリスの意思である)


つまりトリガーは今の所


①俺がメンタル的にヤバイ時

②フィリスが俺の中の力を遠隔操作した時


の2つである。①については、単にメンタルだけではなくザックリ俺がピンチの時に発動してくれるのかもしれない…。


が、実際にピンチにならないとまだ不確定要素であるとしか言えない。


②については、正直フィリスがどうやってるのか知りようもない。


(まぁ…どちらにしろ今のとこ俺が出来る事は、フィリスと修行を続けて強くなることだけだよな、シンプルで良い。)


「でもフィリスがマジで強い事も分かったし、目的はフィリスにバレたとはいえ真面目に戦ってるフィリスの姿も見れたから本来の目的は達成かな…」


(にしても……戦ってる時の"激情"的になってるフィリスの姿…めちゃくちゃ美しかった。ソニアの言うとおり惚れ惚れするぐらいだった……)


いつも俺に笑いかけてくる優しい顔のフィリスからは考えられないような…


"狂気的かつまるで戦いを楽しんでいる"


ような笑みは熾天使というよりは"悪魔"の方が近いのではと思える程───


それに…あの力がこれから先俺が身につける力というのも少し期待できそうだった。


だが、疑問として何故フィリスが特異点の能力を使えるのか…まぁ、フィリスだから出来そうではあるが…

 

(後、フィリスの瞳が戦闘時に加護の力の出力を上げる時、蒼く光るのも気に入った点だ……。それに技名とか詠唱もかっこよすぎるんだよな…)


俺は一目惚れした熾天使が戦う姿を見て、どうしようもなく高揚し、そして更に心を奪われてしまったように感じた………。



         ★

  


──俺は討伐が無事終わった事を討伐隊の悪魔達に伝えに行った。


討伐隊の面々は俺が近付くと明らかに怯えたような反応をする悪魔が複数……


(そりゃフィリスにあんだけビビらされた訳だし、仕方ないか…)


しかしフィリスはまだ洞窟の最奥で調べることがあるらしく残っているので…


今は俺と"何故か人形のようなミニ竜姿で眠りこけたファヴニア"の2人であり、その様子を見た悪魔達は安堵したようであった。


そもそも何故ファヴニアがこんな姿になっているかといえば少し前に遡る───

 

「え?少しの間、肉体が維持できないって?」


「そうだ、お前ら…いやほぼ熾天使、お前のせいだ」


「私?えー?私、アンタに嫌々ながらも回復かけてあげたよね?」


フィリスは私悪くなーいと両手を軽く挙げればわざとらしくニヘッと笑う


「この…白々しい演技をやめろ熾天使」


「ニャハハ…♪」


「肉体に回復はかけたが、我の存在の力の方は回復をかけなかっただろう…我の翼を貫いた後、回復を貴様に妨害されていたのもあって回復に時間がかかっている…」


「あ…そういやフィリスがファヴニアルの回復を阻害してるって言ってたな…」


「そうだ、しばらくはこのサイズ感でしか動けない」


「いやー、私って意地悪するの結構好きみたいだからさ〜?それに、貴方がディガル君に危害を加えられないようにしただけだよ?」


「意地悪というよりここまでくれば性格悪いであろう…悪魔より悪魔みたいな性格だ」


「それはどうも…♪」


「褒めてなどいない!」


「で?回復が終わる明日までどうするんだ?」


「まさか"仲間"になった我を放置していくつもりではあるまいな?」


そう言いながら、可愛らしいミニ竜的な人形の見た目の邪竜ファヴニアちゃんはウルウルとした目で俺の方を見上げてくる。 


───くそ、中身が邪竜ファヴニアルだと分かっててもこの可愛らしいペットのような姿してるのズルいだろ……。


「……どうする?フィリス?」


「ディガル君は相変わらず甘いー。私が引きずり倒して連れて行くよ」


熾天使お前は我に触るな。私の肉体がいくつあっても足りぬ!」


「えー?」


フィリスは全く悪気なくニコニコしてる───怖い(可愛い)


「とにかく、我は回復に徹する為に眠る…特異点悪魔、お前が我を連れて行け」


「えー…問答無用か…」


いうが早いかファヴニアはこの人形のような姿になって俺の頭の上で丸まってしまったという訳だ。


(微妙に重い……)


…などと言えばぶっ飛ばされかねないからなぁ…


それに頭の上に乗られるとバランスが取りにくい…。


俺の頭上で寝ている人形のような姿のミニ竜が"邪竜ファヴニアル"の中身"ファヴニア"だと俺が伝えると討伐隊の悪魔達に戦慄が走る。


「う…嘘だろ?」


「俺達がこれまで何度も討伐失敗しかけ、苦戦しまくったあの邪竜がこれだと?にわかには信じられん……」


悪魔達は俺の周りを取り囲みながら俺の頭の上に乗っているファヴニアのミニ竜姿を観察している。


「あのー……あまり騒がないでくれると助かります。コイツ起きると厄介なので…」


「わ……分かった。怒りでまたさっきのように邪竜の力を解放されても困るしな…」


「あ、あぁ。起こさないように静かに観察しよう……見た目的にはペットにしたい位に可愛らしいのになぁ……」


興味津々な悪魔達は離れようとしない。ましてや、隙あらば触れようと画策しているのが丸わかりな悪魔も居る。


(ハァ……全く…面倒だな)


と俺が思っていれば、少し離れた位置からガイルのおっさんとヒューガ、その他討伐隊の超級の中でも上澄みであろう悪魔達が声をかけてくる。


「阿呆が…その小さき竜から漏れ出てくる瘴気の気配を辿ってみればそれが正真正銘ファヴニアルだと理解できるだろう。死にたいのか、貴様ら…」


と警告するガイルのおっさん


「いや、マジで俺もこれ以上近づこうとは思わないっスよ…見たところディガルには危害ないようだけど俺達に危害を与えないとは限らない」


それに続きヒューガも少し声を荒らげるように警告する。


「いやいや、こう見えて寝てれば全然大丈夫ですよ。ほら」


「あ"……!!」


一人の悪魔がミニ竜姿のファヴニアの鱗に軽く触れる。


───その瞬間目を開けて、自分の状況を確認するファヴニア


『我の眠りを妨げるか……不敬であるぞ…』


「…………ッ!!!」


先程までは、フィリスとの口喧嘩に躍起になっていたとは思えないドスの利いた声色でファヴニアは一言呟く。


しかしその一言は、凄まじいプレッシャー……所謂"圧"を纏っていて、周りを取り囲んでいた悪魔達は恐怖で動くことが出来ない。


中には腰を抜かしてしまった悪魔もいる──


(一応上級とか超級の悪魔で実力もあるはずなのに全然駄目じゃん…。)


とは思ったが、現にファヴニアルから放たれた圧が仮に俺にも効果があったならきっとビビリ倒していただろうから流石に黙る…


「ッ……マジで死ぬかと思ったぜ…」


そう言いながら腰を抜かし、今起き上がった悪魔に俺はどんな顔で接すれば良いか分からずとにかく苦笑いを一つ…。


(にしてもこの悪魔達も災難だな……ファヴニアルに殺されかけ、フィリスに本気で威圧され、ファヴニアにはこうやって再びキレられ…まぁ悪いのはこいつ等なんだけどな……)


──結局紆余曲折ありながら、討伐隊はガイルを先頭に洞窟の外に向けて帰還していく。


あの後、結局ガイルのおっさんには再三に渡って謝られることとなった…


それに加え、討伐者ランクの昇級について話を通しておくと有り難い申し出もあった。


(悪魔が上級、超級の討伐士になる為にはガイルのおっさんのような隊の中心の悪魔達から推薦を受ける必要があるらしい…


フィリスが裏にいて、完全にフィリスが守ってくれるという前提条件であれば俺は"超級"という括りで問題無いというが…)


「ま、9割9分フィリスの力なんだけどな…」


しかしいきなり初級者が超級に推薦されれば色々と環境やら状況も変わり、色々面倒らしく、ひとまずは上級に推薦されつつも中級でしばらくは慣れるほうがいいのでは、という話であった…


(ま、超級になって馬鹿みたいに大量のオファーをこなせと言われたら厄介だし…フィリスも毎日俺の修行に付き合えるわけでは無いからこれでいい。俺自身はまだ初心者みたいなものだしな…)


討伐隊達が洞窟から出ていく姿を見送りながら俺は少し疲れたこともあり、近くの岩へ腰を下ろそうとした───


すると、ファヴニアが人形のような姿のまま話し始めた。


(あ、やっぱ起きてたんですね…)


「おい"特異点"休もうとしているところ悪いが…そうもいかない事情が出来た…」


ファヴニアの話し方は少し余裕が無い…


「え?」


「我も今気配に気づいた…感じないか…?」


「え…なんの…気配だ……?」


「我がいる事で、ある程度この洞窟が邪竜の統治下に置かれていたことは事実だ…」


「うん、なんとなくは分かる…なんか嫌な予感がするんだが…」


ファヴニアはため息をつきながら、厄介そうに


「あぁ…、それに我はこの洞窟の近辺には他種族がそう簡単に立ち入れない結界を維持していた」


「でも、悪魔が普通に入れてたのは…?」


「我も暇だったからな、有象無象の雑魚ならともかく悪魔が我の討伐に来た時は我も良い暇つぶしになるから結界は解いておった」


つまり、悪魔相手にやられるつもりは無かった為、ファヴニアルは討伐隊を暇つぶし程度として相手をしていたようだ。


──しかしながら、想定外(フィリス)の登場によって、ファヴニアルは撃破されてしまった訳か…


「あー…なるほど…つまり、今の状態だと結界は維持できないと…そうなると…?」


「有象無象…だけならまだしもかなりの数の魔物、あるいは力を強奪しようと欲深き人間なども襲来する可能性もある」


「ハァ……、それってどれくらい猶予ある感じだ?おまけに俺達がそれをどうにかする必要は無いんじゃ…?」


「正直猶予などある方が不思議だ…それの何が問題かというと、ここら一帯の均衡が崩れるだけでなく…我の瘴気にあてられて魔物は狂暴化する。」


「なるほど…狂暴化した魔物がこの地から放たれると、魔界にまで影響及ぼす可能性があるって事か」


「察しがいいな、そういうことだ。」


「ほんと、仲間になってからも色々手間かかるなぁ…ファヴニア…」


「我をそう簡単に手懐けるなんて無理だという話だな、瘴気も我以上の存在は居ないからな!ワーハッハ♪」


「笑ってる場合か!」


───まずいな…、大量に魔物が押し寄せるとなると明らかに人手が足りない。


フィリスはこの状況に気付いているのだろうか…


『気付いてるよ?』


いつの間にか俺の隣にフィリスがいた。


「おわっ!?フィリスいつの間に、てか今俺の心読んだ?」


「今来たとこ、んー…なんとなくかな?」


「なんとなく…」


(なんとなくで分かるのすごいな…加護の力で冴えてるのか…?)


「ま、細かい事は気にしない気にしない♪とにかくディガル君…さっきの剣技を鍛えるチャンスだよ」


「あぁ…、他にも覚えられることありそうなら教えてくれフィリス…」


「ん、いーよ♪んじゃ、一緒に戦おっか…ディガル君♪」


──そうして、洞窟の入り口から感じる気配に俺達は立ち向かう事になるのだが…


俺にとっては想定外な事象が起こることになる──


《31話完》

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