第8話 フィリスとの《契約》

《8話》

【ナハス裁判所内】時刻11時37分


俺達4人は正午に始まる裁判に向けて、一通り作戦会議と称して話をした後に控室から法廷の方へと歩き始めた。


法廷は1階にあり、控室のある3階からは階段を降りていくのだが…2階に降りたとほぼ同時にフィリスが口を開く


「あのさ…ちょっとだけディガル君借りていいかな、兄とソニアはちょっと先行ってて?」


フィーゴとソニアはそれを快諾する。


「何かしておかないといけない話があるようだな。まだ裁判が始まるまで時間はある、10分位なら問題ない。俺とソニアは先に下へ向かっておくが…構わないか?ソニア。」


「私はフィーゴ様がそう仰るなら構いませんよ?フィリス様とディガルが二人きりでどんな話をするのか聞いておきたい気持ちも無いといえば嘘になりますが……。私は二人の"逢瀬"を邪魔するつもりはありませんから…フフ…♪」


──おい、なんかやっぱり勘違いしてないかこのお方…逢瀬て…妙に期待させるような言い回しはやめてくれ…!


「あはは、ソニアは相変わらず揶揄うの好きだよねー。でも…意外と近いかもよ?結構いい線行ってると思う。」


「ちょちょ…なんでフィリスまでそこに乗っかるんだよ!」


「ハハ、こういう砕けた会話久々だし楽しいからね。」


じゃあお先に〜…とフィーゴとソニアは絶妙なタイミングで会話から離脱していく。


(あんたら吹っかけるだけ吹っかけておいて、責任取らず離脱してくの勘弁してくれ…(苦笑))


「こういう会話って久々なんだ…?」


「いや…兄やソニア以外にはって話ね。やっぱそれなりに新鮮だよ?私さ…正直なところ対等に話せる相手少ないんだよね。熾天使ってさ、御三家の仲そんなに良いって訳じゃないし…敵ではなくてもやっぱり意識しちゃうとこあるから…」


「やっぱ家柄とか、跡継ぎとか、パワーバランス的なのって結構モメる印象がある……天使もそういうのはあまり人間と変わらないんだな…」


「まぁねー…それだけじゃなくて、他の天使は私が熾天使ってだけで目上の存在だー!みたいな感じの接し方だし。やっぱりディガル君って面白いよ、存在もだけど…私を対等に見て接してくれるってだけでもね♪」


やっぱ熾天使も熾天使で悩みとかあるんだな…普段から馬鹿言い合ったり一緒に笑い合える友達が居ないってのはやっぱり天使でも寂しいとかあるのだろうか…


「俺が面白いかどうかはともかく…フィリスを熾天使だからみたいに特別扱いするつもりも別に無いよ?そもそも最初に呼び捨てで呼んでいいって言ったのはフィリスだから……」


「……って言いたいんだけど、やっぱりどうしてもふとした時に目の前に居るのが天界最上位クラスの熾天使様だと考えると緊張でグラつきそうになる。しかも超絶かわィ…。なんでもない。」


ヤッベ……!流れでつい可愛いと本人の前で言いそうになった。というよりフィリスの悩んだ素振りみたいなポーズとか、少し湿っぽさな雰囲気を纏って感謝の言葉を伝えるとか…さっきから普通に破壊力が凄まじい…。


「あー、言った言った!言ったねぇー、あの時もさ正直いつもみたいに私が見張りをしてたらペコペコする周りの天使や悪魔達に見飽きて帰るんだろうなーとか思ってたから…殴られてる君を発見して良かったよ~」


感謝したいのはこっちなんだけど…フィリスはフィーゴと同じように君でよかったと伝えてくる。


こう見ると確かに兄妹なんだなーと思う。確かに髪色は薄い紫がベースとして同じではあるけども…等と考えているとフィリスが続けて


「それで本題ね…裁判なんだけど、兄は勝率7割って言ったけど、それは多分ディガル君を緊張させない為の話だと思う。」


「正直な話…私は6:4位かなぁとも考えてる、さっきも言ったけどミスタ家が絡んでくる場合正直勝算もなしに来るとは思わないからね。だから万が一というか負けの方を引いてしまった場合…つまり私が極刑になった時に私を…助けて欲しい。」


ここに来て勝率が60%は確かにギャンブルに近い。助けて欲しい…か。俺に力になれることがあるのだろうか…


「勿論フィリスにできる限りの力を貸したいとは思うけど…正直まだ俺は戦闘経験も全然無いし、なんなら自分の存在にすらあまり理解出来てない、何か策があるのか…?」


「極刑になった時に、熾天使の裁判では例えそれが"誤審"だとしてもその裁判に負けたという事実で熾天使の位を剥奪される可能性が高い。理不尽と思うかもだけどこれがルールなの。」


「……つまり疑いをかけられて一度それが悪いと決定されてしまったら印象が悪くなるからってだけで熾天使は駄目ってこと…?」


「そういう事なんだよね…意外と熾天使って厄介な種族だなと思うでしょ?」


──俺はそれに対して頷くことしかできない。


「もし極刑になると熾天使の力や存在を剥奪される訳なんだけど…。私達熾天使はそれを完全に奪われると長時間生きる事が出来ない。言葉の通り"極刑"死んでしまう。」


「どうやったら…フィリスを助けられるんだ…?」


「これは賭けになるんだけど…私の熾天使の力の3分の1を…今ここで君に預ける。ホントに偶然なんだけど…君はソニアも言ってた通りイレギュラーな存在…」


「君は自分の事を悪魔って言ってるけど、オーラを見れるって話から熾天使の力も持ち合わせてる可能性がある、というか多分持ってるの…」


「もし…俺が熾天使の力を持っていなければ…?」


「その時は、私の熾天使の力はあなたに分け与えられずに戻ってくるはず…。」


「うんうん…」


「でも君が熾天使の力を持っているなら…


[私の熾天使の力を君が隠し持ったまま法廷内に入って、私が極刑を受けた後、魔界に堕とされたタイミングで5時間以内なら肉体に熾天使の力が少しでも戻れば生きながらえられるから迎えに来て欲しいの]


…でもあくまでこれも聞いた話、君みたいなイレギュラーな存在そうそう居ないから実際にできたって話もほとんど知らない。」


「ホントに…賭けだよな。一番いいのはフィリスが無罪になってくれることなんだけど…。」


「ごめんねディガル君…私さ、まだ死ねないんだ。普通に未練たらたらで…もし私が熾天使の加護を剥奪されて魔界送りにされて仮に半分悪魔になったとしても……私はまだ死ぬ訳にはいかないんだよね」


──そして、フィリスはひと呼吸をついて信念のこもった声で改めて伝えてくる。


「だからディガル君、君の力を…私に貸して欲しい、御礼は…私のできる事なら何でも一つディガル君の言うことを聞く…でどうかな?」


それ……仮に俺じゃ無い悪魔なら、下心丸出しのお願いしそうだぞ…?いや、これは俺試されてるのか…?


「俺はフィリスがそうやって必死に生き延びようとするの…天使っぽくないけどなんか分かるし手を貸したいって気持ちが強くなったよ。ハハ…んじゃしてもらう御礼は考えておくよ。」


「い、言っとくけど御礼に私の命とかは駄目だからね。後"抱かせろ"とかそういうのもなるべく……」


と苦笑いをしながらフィリスは自分の胸を隠すような仕草をする。可愛い…


「分かってるよ。とにかく…俺に力を預けられるかがまず第一関門だろ…?」


「その点において私は心配してないよ?んじゃ、やろっか…私との《契約》を」


《8話完》

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