仕事としての日本

 ☆☆☆


「じゃぁ、サムはゆっくりしていってね。今日は職場の人たちを案内してくるわ」

「ああ」

 宿泊先のホテルのドアをバタンと閉めて、職場のみんなと合流すべく日本の国際空港に向かった。


 ☆☆☆ 


 荷物を受け取る場所で合流した。

「久しぶり。皆さん無事についてのね」

 職場のみんなは無事に空港に着いたようだ。

 日頃から移動で空港を使い慣れているオーストラリアの面々は目を輝かせて千葉の街を見ている。

「ええ。ただ一人だけ耳の調子がおかしくて気持ち悪いってずっと言っているの」

「飴でも舐めますか」

「ああ。ありがとう」

 体調不良を起こした男性は飴を素直に口に入れた。

 職場のみんなは日本は初めてだ。


 タクシーで移動をしていて、空港の空気感から住宅街へと入り、そして高層マンション街になったとき感嘆の声をあげる女性たち。

「わ。すごいですね」

「でしょ。まだまだサンタは根付いてはいないけれど、祝い事は好きな民族だからね」

 結局ガイドのような役割をしている。

 オーストラリアでは、日頃から職場の仲間たちによくしてもらっているから恩返しだ。

「で、どこでサンタができるのかしら」

「出来る場所はない……かしら。会議室を借りてそこのスペースでやるしかないかな」

「そうなのね。公共の場で何かすることができないのは痛いわね」

「公園で何か催し物をやるとかはできるでしょうけれど、許可をとるのが大変なの。寛容な人たちばかりではないから」

「そう。日本は便利で豊かな分、そいうところが貧しいのね」

「そうかもしれません。同調圧力もすごいですし」

「同調圧力?」

「他人と同じ方がいいという考えでそれを他人にも強要する空気感ですかね」

「本当にがあるのね」

「迷惑ですか?」

「目立っていくのが人生なのに。日本にはつまらない人が多いのかしら」

「確かに多いでしょうね」

 日本人はリスクを極端に嫌う。外国から見れば異質なのかもしれない。仕方ないことだ。カトリックやプロテスタントといった教会は特に目を凝らし、ネットや専用のホームページを事前に調べておかないと決してだどりつけない閑静な場所にひっそりと建っている。

「教会でのイベント事って所属していなければわからないくらいだもの」

 もちろんミッションスクールもあるが、仏教系の学校も多くを占める。

「どこか提携してくれる学校はないかしら」

「調べてみますが、すぐには無理でしょう」

 年間スケジュールはどこも決まっているものだ。サンタクロースの協会といえど時間をすぐに割ける団体はない。交渉しなくてはならない。

「どこならふさわしいかしら」

「カトリック教会やプロテスタント系の学校ならきっと融通がきくのではないでしょうか」

「そうね。どこにしましょうか」

「オーストラリアの姉妹都市として交流されている場所から選んではどうでしょうか」

「いいわね。さっそく帰ったら場所を探しましょう」

「はい」

「それよりも日本の今を楽しんでください」

「日本人ってつまらなそうな顔をした人ばかりね」

「ええ。日本人は勤勉でいなくては蹴落とされてしまうので」

「バカンスは?」

「大人になればそんなものはないです」

「ないの? オーマイガー」

「日本人には基本残業40時間ほどが当たり前の企業も多いですよ」

「日本人クレイジーね」

「私も日本では働きたくはないですね。自己研鑽の量も嫌がらせの量も半端ではないので」

「え? 嫌がらせ? どういうこと?」


「あまりに極限状態になると人を貶めてストレス発散する人も多いんですよ」

「まぁ。かわいそうな人たちね」

「……何でしょうかね。一番かわいそうなのはきちんと仕事をしているのに嫌がらせされている人だと思いますよ」

「ああ。だからジサツになるのね」

「ええ。日本の恥ずべきトコロだと思いますよ」


「悲しいわ。日本人が幸せになれるように祈っているわ」

 職場の人たちは口々に祈りの言葉を捧げている。


(外国の人の方が優しいなんてね。日本は修羅の国になりつつあるわ)

 佳織とて自国の幸せ度合いが上がることを願ってやまない一人だ。


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