スクールで講義

 日本の観光になりつつある。

 外国籍の興味関心はもっぱら宗教についてだ。


「なぜ、キリスト教が広まらなかったのか」

「なぜなの?」


「キリストを信仰していないご先祖様はどうなるのか。地獄に落ちるのかって問い詰めたそうなの」


「確かに気になるわね。もうみんなキリスト教だからそんな疑問は湧いてこないわ」

「でしょ。宣教師も困ったそうなの。日本は先祖様にも敬意を払うからね」

 オーストラリア生まれの面々は考え込んでしまった。

 恐らく教義にあるちょっとした矛盾に気づいてしまったのだ。

「信仰しないものは地獄におちるっていうわよね」


「神様は唯一キリストのみってのも教わったぞ」

 ならなぜ、多神教国家がこんなにも長く続いているのだろうか。

 それと一神教を教義とする派閥が存在するのはなぜなのか。

 深い問題だ。


 ここ数年の話ではなく数百年、

 千年以上前のことをあれこれというのは非常に難しい。


「日本人はSNSもなかった時代からこんな問題を定義していたのね」

「ある意味クレイジーだね」

「そうかもしれないわね」

 日本人はクレイジーという言葉をいただいた。


 誉め言葉なのかそれとも違うのか。解釈により意味は違ってくるだろう。


「うむ。みんな、聞いてくれ。日本のミッションスクールで講義の時間が取れたぞ」

「すごいですね。スケジュールがタイトなイメージがありますが」


「本当にタイトだった。だから30分だけだ。オーストラリアの活動についてレポートを発表するょうする」

「わかりました。下書きと言いますか、おおよそのレジュメは作成してあります。あとは退所者の年齢を考慮してわかりやすくするだけでいいかと」

「中学生の朝礼の時間でやる」

「中学何年生ですか?」

 1年生と3年生では内容に違いは出てくる。

 表現を変える必要もあるかもしれない。

「中学1年生の全生徒だ」

「そうですか。少しわかりやすい表現に変える必要がありますかね」

「そうね。ここの文脈が少し硬いかしら」

「ですよね。至急修正します」

「出来そうか? 1週間以内だぞ」

「お任せください。今からなら余裕がありそうですね」

「全員で発表だからな。情報はすべて共有しておかないといけない」

「そうですよね。わかりました。できるだけ早く仕上げて印刷にかけますね」


「よろしく頼む」


 今の時代はパワーポーイントで発表だろうか。

 あいにくとソフトに対応できる社員は思いのほか少ない。

 さらに別の表現方法ならもっと少なくなるだろう。

「どうなることか」

 資料自体はすこし手直しするだけで教材として使えるものになった。

「コレでどうかしら」


「随分わかりやすく読みやすくなったと思うわ。あとはどれだけの大きさで印刷すればいいかだけ」

「A4かしら。それともB5かしら」

 支部長は指示を出した。

「B5で頼む」

「なぜですか?」

「配布物が多すぎて、A4だと埋もれる」

「一般的なサイズの方が管理しやすいのでは?」

「最近の中学生は良いようにノートをカスタマイズするからな。ノートに張り付けられる図や大きさにしておいた方がいいそうだ」

「確かに」

 学校の偏差値を調べるとなかなかの進学校らしい。

「指導が厳しそうですからね。提出物にもこだわりがあるのでしょうね」

「扱いやすい話だと印象づけるのも大切だ」

「そうですね。そのように図も調整してみます」

 微調整に長時間費やしそうだった。


 ☆☆☆


 講義当日、学校に出向いた面々が生徒と相対する。

 生徒たちは純真そうで礼儀正しい子ばかりといった印象だった。

「これから海外のサンタクロースの歴史について学びます。資料をお配りしますので」

 列の人数分プリントを配布していく。簡単そうに見えて大人のカサついた指では枚数を数えるのにも苦労する。

「では、3ページを見てください」

 授業は時間通りにうまくいった。

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