PR活動
支部長から写真をあげるように指令があった。
「オーストラリアでも日本でも話題になっていることだからいい機会だ。次の機会にはPR活動を積極的に行うように」
支部長はさっそく支部のアカウントを立ち上げて支部の様子を写そうとするが、なにせ普通の職員の様子は子供の夢を壊しかねない。
いつでもサンタを連想させる服装で働いてはいないのだ。
「支部長! どうか、ポスターだけで思いとどまってください」
「しかし、PRのチャンス……」
「チャンスはほかでもありますから」
「わかったよ」
こうして子供の夢は守られた。
女性社員は写真の加工に必死だ。
「何とかもっとかわいくみられるようにしたい」
必死に顔を加工する人もいれば、星やハートでどうにか隠れないかと悪戦苦闘している社員もいる。
(皆、必死なんだな)
佳織はどちらでもない。
ただカメラに映ったありのままを発信している。
日本のマスコミに取り上げられてしばらく経つ。
支部長はまだ需要があると思っているようだが、もう別の話題に切り替わっているのをしらない。
若者中心の話題はもう下火になっているだろうと思うが、
侮れないのがSNSの時代だ。
忘れ去られた話題もあるが、また注目される話題もある。
(再度注目されることを祈るしかないな。流行なんてわからないものだもの)
佳織は仕事の内容に目を向ける。
相変わらず子どもたちの願いはカワイイ。
おもちゃを買って。お母さんに休みをあげて。
特に日本からの手紙が多くなった。
今年は日本に出張もいいかもしれない。
「支部長、お話があります」
この話が実現するか夢物語として終わるかどうかは支部長次第だ。
「日本でPR活動だって。それは良い」
「いい案だと思われたら、次の会議で予算取ってきてくださいね」
予算が潤沢になくては海外遠征はできない。
「今からか。予算会議には時間がないが、清水君、資料作りを手伝ってくれるね」
「やっぱりそう来ますよね」
「当然だ。我々を案内するつもりで制作してくれると予算がとおりやすいかもしれない」
「それはしません。日本の子供たちに啓蒙活動してください」
「キリスト教が根付かなかったニッポンにか」
「今でも信じている人はいるんです。それはオーストラリアと変わりませんよ」
「そうか。ぜひ予算をとってこなければ」
しっかりと真面目に予算をとってくる算段を付けてくるかと思われたが次の人ことでそうではないとわかった。
「――時に清水君、どうやって地震から身を守るんだね?」
「その言葉、山火事に見舞われているのと大して変わりませんよ」
結局資料作りを手伝って夜遅くになってしまった。愛しの同居人に電話をかける。
「ごめんね。サム。これから帰るから迎えに来てくれない?」
『いいとも。これから姉さんと行くから待ってて』
「はい」
サムのお姉さんもご両親も陽気な方ですんなり私のことを受け入れてくれ、
連絡先の交換もしてくれている。
サムが親日家と言っていたように日本行事に興味があり、
神社が何か、寺が何かといったことを聞かれた。
(そんなことを聞かれるとは思わなかったな。今度実家に寄ったときに父に聞かないとなぁ。日本文化を説明できるようになっておかないと恥ずかしい思いをする)
「神社ってどういえばいいんだ」
寺は学校で習うが神社は覚えがない。
しっかりと授業は受けてきたつもりだけれど
自国の文化の説明は後回しにしていた。これではいけない。
「自国の文化を海外で学ぶなんて義務教育の敗北なんじゃないかしら」
まっとうに授業を受けてきたつもりだったが、こんなところに穴があろうとは。
「人生かけて勉強するものなのね」
今までの勉強法を反省しながらサムを待った。
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